ボイスドラマ活動者インタビュー企画「ボイドラと人」第12回は初の対談!
ゲストは「隣のKさん」と「みや。さん」です。
おにぎりワゴンさん
*1最後の作品、
クロとシロの2人の旅人による願いを叶えるための旅を描いた「クロの旅人/シロのたびびと」の内、隣のKさんが編集を担当した「クロの旅人」を※ネタバレ有り※で語って頂きました。
※まだ「クロの旅人/シロのたびびと」聴いていない方は、聴いた後に読まれる事を強く推奨致します※
【本日のゲスト】
隣のKさん
音響編集
劇団ねこ入玉手箱や音声劇団ばなわに!などで音響編集で参加。現在、スケジュールや諸条件要相談の上で、依頼も受付中。
みや。さん
演者、企画者
第2回に続いてのゲスト。ボイスドラマサークル「おにぎりワゴン」の企画者。そのハスキーボイスから少年役の出演作多数。この頃は女性役も増えて来たとか。
出演可能な役:少年、女性(若い)、女性(中年)※依頼受付中
幸橋:
今回はゲスト「隣のKさん」と「みや。さん」をお呼びして、おにぎりワゴンさんの「クロの旅人」を徹底解剖したいと思います!
<目次>
『初めに~闇属性と奇跡的なタイミング~』
幸橋:
さて、早速ではありますが、隣のKさんは以前からおにぎりワゴンさんと一度ご一緒してみたかったと聞いたことがありますが、どうしてそう思っていたんですか。
隣のK:
おにぎりワゴンさんの作品は何個か聴いたことがあるのですが、
おにぎりワゴンさんの作品で最初に聴いたのが「ブーゲンビリアにくちづけを」*2で、この作品が一番好きなんです。この作品を聴いて、
みや。さんは腹に何か持っているぞ! と思いました。創作をする人は導入部分をお決まりなベタな感じに作りがるというか、八方美人になりがちなんですが、
こびない姿勢が良いなと思っていました。後ろにしっかりどろっとした部分がある(笑)
「LAST desire」
*3の大衆向けも良いですが、
自分のやりたい主張、テーマがあり、面白いなと思っていました。
みや:
有難いの一言に尽きますね。
ブーゲンビリアがおにぎりワゴンで初めて聴いた作品だと言われるのは初めてだったので驚きました。
一物抱えているのはその通りです。闇属性なので(笑)
隣のK:
闇が深いなと思いました。
みや。:
人なんて信じないくらいに闇落ちしたのが出ているのが
ブーゲンビリアですね。
隣のK:
コミュニケーションスキルは培ってきましたが、自分も基本は闇属性なので共感をもったのかもしれませんね。
幸橋:
なるほど。ということは、本日の会は闇属性の集まりということですね!←
そんな闇属性会にぴったりな今回のテーマは「クロの旅人」ですが、台本を最初に見た時の感想はいかがでしたか。
隣のK:
一番最初に見たのは台本ではなくプロットだったのですが、来たぞ、闇がと思いましたね。LAST desireは昼の顔でしたが、クロの旅人は夜のターンだったので、手をあげて良かったなと思いました。シロのたびびととクロの旅人のテーマ自体が暗くて、宗教的で、闇の部分があります。
ここで迷ったのが、どこまで物語のバックボーン、時代や背景にあるものについて突っ込んで掘り下げるのかでした。逆に、わざと突っ込まずにこちらから投げたものを判断してもらうという方法もあり、どちらで行くかで悩みましたが、最終的に後者のあえて突っ込まず、まずはこちらで作ったものを投げる方法にしました。
幸橋:
そう言えば、私が企画で隣のKさんとご一緒した際にも物語の世界の科学水準など質問をたくさんいただいた記憶があります。
その方法はみや。さんとしてはいかがでしたか。
みや。:
突っ込んで聞かれてもそこまで考えていないということがあって、LAST desireの時も編集のKiMさん
*4に編集を丸投げでした。2030年のお話なのですが、どんな風に発達しているのかはお任せでした。
考えていない訳ではありませんが、お渡ししている物以上のものはありません。なので、今回のような、とりあえずやってもらうという方法は楽でした。
隣のK:
世界設定が近世くらいと聞いていたので、科学水準はそのくらいで、あとは、ファンタジーとか、町から町へと移る
ドラクエのイメージでした。
背景に音も入れようと思えば入れられたんです。例えば、ここらへんは滝にしようとか鳥のさえずりを入れるとか。でも、 情報過多になるのでやめました。お話だけを集中して聴けるようにしたかったんです。
みや。:
クロの旅人自体が現世でもなく、誰かによって創られた世界です。明確にされると現実っぽくなりますし、人と人とのやり取りが重要なので、その判断で良かったです。改めて、お願いして良かったと思います。
隣のK:
音付けが面倒くさかったとかではありませんよ?
みや。:
そんなこと思ってませんよ(笑)
幸橋:
序盤から攻めてきますね(笑)
隣のK:
シーンの切り替わりや町が変わったことはイメージできないといけませんが、他はふわっとさせて、エゴのぶつかり合いだけがわかるようにした方が良いかなと考えて編集しました。
幸橋:
今更ですが、みや。さんが隣のKさんを知ったのはどういう流れだったんですか。
みや。:
いつの間にか知っていましたが、恐らくTwitterでフォローして貰ったのが最初だと思います。その時に、プロフィールを見て、編集をしている人なんだなと思いました。その後、浅沼さん
*5のばなわに
*6で
編集された作品を聞いて、ああ、ただのプロだわと。
幸橋:
ただのプロですね(笑)
みや。:
いつかはお願いしたいなと思っていました。
本当はクロの旅人はの編集は別の方にお願いしていたのですが、急に出来ないと言われ、M3まで日が無いという状態で、
Twitterで嘆いていたら、隣のKさんが手を差し伸べて下さいました。
幸橋:
不幸中の幸いと言いますか。
みや。:
そうですね。結果的に隣のKさんにお願い出来たので良かったんだと思います。
隣のK:
たまたま仕事が暇な時期だったんです。次の仕事までの中間期で、毎週固定の仕事が減っていたので、メンタルも体調面も上向いていて、今ならできそうだなと思いました。M3まで3週間くらだったので、出来るなと思い、魔が差し……いえ、手を差し伸べる仏心が生まれました。
幸橋:
今、魔が差したって言いましたよね?(笑)
隣のK:
チャンスだなとは思いました。今だったら断っています。
1ヶ月早くても遅くてもダメでした。本当にタイミングが良かった。ついつい
ドラクエのレベル上げをやるような暇さだったので、そういう運命だったのかなと。
みや。:
デスティニーですね。
幸橋:
変にまとまった雰囲気になっていますが、まだ締めないでくださいね!
『2つのループ~命の循環とシロとクロの循環~』
幸橋:
最初から本題に入ってしまうと、クロの旅人でやりたかったことはなんだったんでしょうか。
みや。:
もっともらしいことを言うと、命や魂の循環を自分なりに考えて作りたかったんです。もう一方で本音を言うと、今の回答と矛盾しますが、何も考えずに作りたかったんです。
幸橋:
何も考えずに作りたかったのが、命の循環……?
みや。:
今まではおにぎりワゴンがボイスドラマ界隈で作品を聴いてもらえるようになっていく中で、作品を聴かれている意識で書いていました。LAST desireは特に聴かれていることを意識して書きました。でも、聴かれていることを意識して書いたものは、自分が本当に書きたいものなのかとも思っていたんです。聴いている人が感じるものを作ることも楽しいですが、自分がやりたいと思ったことを思いついたままに書いてみたかったんです。
幸橋:
思いつくままに書いて、かなり深いテーマになったんですね。もっと身近な現代のお話になりそうなものですが。
みや。:
身近なところは書きやすいですよ。知っていることから話は生み出しやすいですが、命や魂がどこに行くか考えたことはありませんか。ちょっと宗教的ですが、殺された人が成仏するのか、魂になって憎しみや後悔はどうなるんだろうと。考えないですかね。
隣のK:
年齢を重ねると生きて来たことに対する俯瞰の目が出てきます。自分も年齢を重ねて人生の意味や死について考えるようになってきたのですが、今回の話はその人生観にスポッとはまりました。
予定調和な復讐の話にするなら、救済すれば物語は終わるのですが、そこに留まらず、魂の循環という大きなループと自己犠牲に似た1人だけの小さなループという2つのループがあり、その輪の中心に神様がいるというのは、テーマとして非常に面白いと思います。
幸橋:
大きなループと小さなループ?
隣のK:
大きなループは人の輪廻転生、小さなループはシロとクロの循環です。
それがみや。さんが書きたかったのかはわかりませんが、新しい生死感を提示していて、流行りのメインストリームにはならないと思いますが、みや。さん個人の回答としては良いテーマになっていると思います。
みや。:
最初はクロの旅人の4話でクロがそのまま妹を殺すエンディングを考えていました。循環という要素は考えていなかったんです。最終話で妹としゃべるシーンで、クロのことを妹に語らせて、妹も笑顔でさよならにして、良い話にしようと思っていたんですが、途中から違うなと思いました。クロは絶対、妹を殺さない。自分が死んでも殺さない。
また、シロのたびびとで、クロはシロに自分のことを話すのかな? と思いました。クロは自分がやったこと全てを無しにしたい、シロは記憶が欲しいと思っていました。シロのたびびとでの最後のクロとシロのやりとりはそのまま自分の思考です。そこで入れ替わるのは面白いんじゃないのかなと単純に思ったんです。最初のプロットよりも面白いと思ったので変えました。結果、ループがもう1つ生まれたのが良かったと思います。
隣のK:
最初の設定だと割とテーマは普通で、ありきたりな話になっていますね。
輪廻転生の中にもう1つの循環があることで、今までに無い話になっています。ありきたりな話からオリジナルになる。ここがみや。さんのア
イデアの良いところだと思います。本当に素晴らしい。
みや。:
自分でもそう思います(笑)
幸橋:
ほめた良いところを素直に認めるのも素晴らしいですね(笑)
隣のK:
宗教チックにはなりますが、自己犠牲が入ると救いという要素を盛り込めるんですよね。二次的な要素が出て来て、話が膨らませられる。自分がシロだったら、クロだったらと視聴者が考えるので、要素として面白いですよね。
あと、話に無理がないのが良かったです。理屈が破綻していないくて、細かく聴けば粗があるかもしれませんが、ざっと聴いていやいや違うでしょにはならない。整合性がとれて、すっと入って来るので、嬉しいですね。
『第1話「妻と夫」について~演技を聴いて欲しい~』
幸橋:
全4話あるクロの旅人について順に訊いていきたいと思います。個人的に1話は世界を把握する要素に乏しく、至れり尽くせりで視聴者に親切な描写があるおにぎりワゴンさんらしくないという感想を持ったのですが、いかがですか。
隣のK:
1話は昼ドラっぽくしました。わかりやすく感情が昂ぶるところで音楽をつけて、妻の激情を型通り見せました。これは後で型を破りたかったためですが、
お話もおにぎりワゴンらしくないくらい、異様に普通で、世界観を多少説明はしますが、ループを感じさせない内容です。なので、極力普通に終わらせました。
幸橋:
その編集方針に対して、みや。さんはいかがですか。
みや。:
編集的にも型を破る後の話に持っていきたいから、1話はそのように編集したというのは有難いです。
1話を聴いた時に、隣のKさんは台本通りに汲み取ってくれたと思いました。いわゆる、ボイスドラマの編集だと。音楽の入れ方も、感情がここでこうなるからとか、流れが変わるからとか、わかりやすくて台本通り汲み取って、丁寧に編集してくださったので、意外だったという部分はありませんでした。
細かいところで言えば、電気を消すシーンがあったのですが、時代設定として、この世界に電気があるのかと訊かれ、ランプにしてくださったくらいです。
隣のK:
1話ではなく、全体についての質問になりますが、4話は話の流れ上、最後に持って来なくてはいけなかったと思いますが、2話と3話はひっくり返しても良いのかなと個人的に思っていて、なぜこの流れにしたのか気になりました。もっとわかりやすい憎しみの形があったのではないかとも思うのですが。
みや。:
第1話はプロット段階では、最初のシーンが、路地裏に夫がクロの旅人に導かれるというシーンになるはずだったんです。この
夫婦を掘り下げるつもりはなく、残酷なシーンとしていきなり殺したらインパクトがあるなというだけだったんです。その時点でキャストは
神崎さん*7と
浅見さん*8のお2人にする予定でした。それだけだと良くないと思って、1話の形にしましたが、
内容よりもお2人のお芝居が素晴らしいので、それを聴いて欲しかったんです。
説明が不親切ですが、芝居を聴いて欲しかったので、世界観とかクロのお供が何者かといったことを説明するつもりはありませんでした。
幸橋:
なるほど、それで情報が少なかったんですね。
みや。:
第1話は夫婦がどろどろしているから、かわいい双子を出そうと思いました。第2話は宗教ですね。義務がこり固まっていて、決まっている、非現実な世界ですが、2人は可愛いから癒されると思いました。
幸橋:
可愛い分、最後が痛いですが(苦笑)
みや。:
そうなんです。結局、暗い暗い、良い話じゃないと続いたので、良い子を出さないと、と思って、あの第3話になりました。
『第2話「双子」について~「曲の使い方に込めた意味」と「垣間見る人間性」~』
幸橋:
では、この流れで第2話についてお聞きしたいと思います。隣のKさん、第2話でここはというシーンはありますか。
隣のK:
第2話は双子の絶命したところが良いお芝居でした。でも、逆に良い芝居過ぎてめっちゃ痛いので、どう聴かせようか悩みました。
幸橋:
確かにあれは迫真の演技でしたね。
隣のK:
あそこに痛い音楽で絶望的なシーンにするのがわかりやすい手法ではあるのですが、それで良いのかなと思いました。
悩んで「双子」というワードから、わかりづらいのですが、少々オマージュをしています。
幸橋:
何のオマージュなんですか?
隣のK:
みや。:
ああ、あの。
隣のK:
女性ボーカルの曲が流れてエンディングに突入するんですが、そのシーンが好きで、
心優しい双子の死に寄り添うのは母性のあるソプラノボーカルだと思ったんです。それくらいの救いがあっても良いじゃないかと。なので、教会が出て来ることもあって
アヴェ・マリアを使いました。
同じ曲で次まで繋ぐということは普段あまりやらないのですが、余韻を引きずって欲しかったんです。他の旅人のエピソードも入れないといけなかったので、そこまでは
音楽でここがメインだと明示したいという理由もありました。双子の最期と先生の話は違うシーンなので、
本来は音楽を変えた方が良いのですが、そのままにして、勝手をやらせて頂きました。
型を破りたかったんですね。ちょっとずつ他のボイスドラマとは違うものにしたかったんです。
みや。:
制作時に、可哀想な感じでシーンが変わるパターンと今回採用したシーンをまたいで1曲使っているパターンどちらのパターンが良いか訊かれました。
聴いた時にこんなお話になるんだという驚きがありました。本当に痛々しい芝居をIN9さん*9とかずらなつさん*10がしていて、音楽無しで2人の痛いを聴いてもらっても良いくらいに思っていたんです。
「痛い」を強調した方が良いと思って、音楽がシーンにはまらなかったら、消してもらおうと思っていました。でも、
聴いた時に一気にシーンに色が付いた印象がありました。双子が死ぬことに痛い以外の印象を受けて素晴らしいと思いました。
同じ音楽で天合さん*11演じる先生が双子を殺してくれてありがとうと言っていて、この気持ちをどうしたら良いんだと思いましたよ。
隣のK:
音楽をつなげることで先生へのもやっとした感じを出したかったので、わかって貰えたなら本望です。
みや。:
中の人ですが、天合何言ってんだよ! という気持ちになりますね。別のシーンの時間が同じところを流れているとわかります。
幸橋:
全体的にクラシックっぽい曲が使われている印象がありますが、これは意識していたんですか。
隣のK:
いわゆるループ調のものを使うのはやめました。テクノロジーというか電子っぽい曲では無く、ピアノとオケを使っています。みや。さんの最初の注文が
ドラクエだったので、よし、
すぎやまこういちクラシックだ! と(笑)ループで使うようなBGMは合わないので、
音楽にストーリーがあって感情に被さるように編集、選曲した方が良いとは思っていました。選曲上、候補にならなかったというのが正しいかもしれません。
幸橋:
このタイミングで訊いて良いのかわかりませんが、以前、隣のKさんとお話していた時に、編集していて企画者や演者の
人間性が見えて面白いと仰っていたのですが、今回「クロの旅人」で
人間性が見えた人はいますか。
隣のK:
天合さんですね。
幸橋:
へえ(笑)どんな風に見えたんですか。
隣のK:
よく知りませんが、たぶん良い人だと思うんですよね。心穏やかでお人好しだと思うんです。
みや。:
10年くらい付き合いがありますが、まさにですね。
幸橋:
どこでお人好しだと感じたんですか。
隣のK:
「双子を殺してくださってありがとうございます」を頑張って言っているんですよね。こういうセリフが自分の口から出ることに嫌悪感があるんじゃないでしょうか。芝居がダメという意味では無いんです。滲みだし方というか、心の臓から絞り出している感じが良い人だなと思いました。あそこのブレス、「双子を殺してくださって」の「て」で止めて言う感じが良い人だなと。するっと言えるような奴はクズな奴が多いですよ(笑)
みや。:
スタ録で頑張っていたので。一番苦労してましたよ。
隣のK:
演者のタイプにもよるとは思います。良い人でもするっと言える人もいるし、悩んで逆にセリフに重みが出る天合さんタイプもあります。振り切っているのは浅見さんですが、本人はそんなことないですよね。
みや。:
ないですね(笑)
隣のK:
幸橋:
問題発言を聞いた気がしますが、激しく同感です。
みや。:
蹴るところだけに集中していた感じはありますね(笑)
隣のK:
当たっているかはわかりませんが、アプローチの初見でどういう風にそのアプローチを出しているのか考える癖があります。
昔の小説家の思いを考えるみたいな感じで、ほとんど自分が楽しむだけの妄想ですね。はずれることもありますが、当たることが多いですね。あ、でも、幸橋さんは作品から受ける印象と本人が違いました。
幸橋:
私ですか?
隣のK:
「Wing of the Beginning.」
*12だと社交的でよく話す人かと思ったら全然違いました。
幸橋:
原作があるので、原作者の倭姫の印象だったんじゃないでしょうか(苦笑)根っからの引きこもり人見知り体質です。
隣のK:
自分もそうなので、今はわかります(笑)
『第3話「孫と祖父」について~シロのたびびとに託された救済と7分半の曲~』
幸橋:
後半に入って、第3話はどうでしたか。
隣のK:
第3話は良い子の話でした。良い子であるがゆえに独善に陥って、間違いを犯す。先ほど、みや。さんがしんどいのが続いたから、良い子を出したと言っていましたが、正直、これが一番どぎついと思っています。良かれと思ったことが間違いだったという絶望感は人間にはしんどいことです。
ここで初めてシロのたびびとはどうなるのかと思って、シロのたびびとをチェックすると、この子は救われていたんです。シロのたびびとととクロの旅人はセットで聴くでしょうから、2話は救済や優しさを入れましたが、3話は情けをかけていません。救いはシロのたびびとでどうぞ、クロの旅人では孫は間違いだという風に終わるようにしました。
幸橋:
確かに。最後はもはや曲無しで寒々しい風の音だけでしたね。
隣のK:
でも、実はおじいちゃんのシーンには7分半くらいある長い曲を丸々流させてもらいました。オリジナルなら話の展開通りに変化できますが、クロの旅人のために作った訳ではないので、合う合わないはあります。でも、お話の世界感に合っていて、全体的にも第一印象でいけると思ったんです。
幸橋:
どうしてそこまでしてその曲を全部使おうとしたんですか。
隣のK:
1曲7分も使うってかっこいいじゃないですか。
幸橋:
まさかのかっこいいからが理由(笑)でも、確かにそんなに長い曲を丸っと使うのはあまり見かけませんね。
隣のK:
でしょう? やりたいなと思って、ちょっとシーンと曲が合ってないところはボリュームを下げてごまかして、シーンが昂ぶったら上げてと調整しました。もちろん、みや。さんが好きじゃなかったらと思って、もう1つのパターンを作って、2パターンで確認して貰いました。こちらのパターンになるように誘導したので、半分強制でしたけどね。2話のシーンをまたいで曲を使うことを受け入れて貰って、調子に乗っていたんです。
幸橋:
だそうですが、みや。さんは2パターン聴いて、正直どうでしたか。
みや。:
2話と同じく、最初は音楽がずっと流れているよりも無音とか感情に合わせて曲を変えてもらうくらいで良いかなと思っていたのですが、7分半ぶっ通しで流しているのが聴いていて面白かったので、これにしようと思いました。
確かにびっくりはしました。同じ曲をずっと使っているのを聴いたことがないことはなかったのですが、どれもどこか違和感があるものばかりでした。 でも、今回頂いたものは違和感がなかったので。それに孫の気持ちや考えはクロに出会うことで変わることがないので、同じ音楽で寄り添うのも良いのかなと思い、これでお願いしますと。まあ、誘導もあったかもしれませんが(笑)
隣のK:
みなまで言うなというやつですね。すごく良いシーンだったので、今までにない感じにしたかったんです。じじいが死んだところでちゃんとフレーズが終わるように調整はしましたよ。
幸橋:
じじいって呼び方変わってます(笑)
『第4話「兄妹」について~虐殺シーンとクロの爆発~』
幸橋:
では、とうとう問題の第4話についてですが、最終話はどうでしたか。
隣のK:
まずは兄貴が腹立つじゃないですか。
幸橋:
表現(笑)まあ、腹立ちますね。
隣のK:
お芝居としては正解なんですけどね。
それは一旦、置いておき、2話と3話では触れませんでしたが、所々、神様のモノローグが入るんですよね。4話の頭では神様のところで、優しくて甘めの声の方が淡々とグロい感じもなく、文字を読んでいるという風でもなく、グロいことを優しく読んでいるんです。その冒頭の後に人が死んで、妹が登場してクロを引っ張って行くんですが、妹がクロにとって天使のような役割であることがわかることがわかります。
で、一方で、兄貴が腹立つ。ゲスの極みとはこのことだと思うのですが、1人で死ぬのが寂しいという気持ちがよくわかるんです。孤独が一番つらいのが人間の本質だと思うので、彼に感情移入はできないが、理解は出来ます。そんな人の自己中心的な部分が出れば良いなと思って編集しました。
幸橋:
他には編集上で考えたことはありますか。
隣のK:
終わり方に関しては、雨だけにして雨の音を煽って終わろうというのは決めていました。
後は、妹を撃って当たらないシーンの後の2秒の間はベタな感じになりましたが、このシーンははこうだよねというところは守りつつ、
最後、クロの妹への幸せを願って死ぬところに、2話で使ったものとは違うアヴェ・マリアを使いました。2話は
シューベルト、4話は
カッチーニの
アヴェ・マリアですね。
自己犠牲な人のところに報いをあげたいなと思って、リフレインさせる意味でも、同じアヴェ・マリアを使いました。
幸橋:
これは凄く個人的に思ったことなんですが、現世でのクロと彼の家族が虐殺されたシーンはモノローグだけじゃないですか。これを実際そのままシーンとして描こうとは思わなかったんですか。
みや。:
残酷な部分は残酷なように描くと残酷になります。そのままの意味で、何を言っているんだと思われるかもしれませんが、そういう印象を与えたくなかったんです。クロの視点で描いているので、神様も語りますが、クロが感じたものを彼に淡々と言わせました。
正直、残酷なシーンとして描くことは考えませんでした。そういう印象を与えたい訳ではなく、えぐい、可哀想とも思って欲しくなかったんです。そういうことをされたという事実を知って、彼の憎しみの大きさを知って欲しくて語っているだけなんです。
幸橋:
なるほど。
みや。:
確かに言われてみて、美藤秀吉
*13の殺人者やこのメンツでの
虐殺シーンは聴いてみたかったとは思います。でも、描くつもりは全くありませんでした。音だけの情報だとより敏感になるので、映像よりもえぐくなる可能性もありましたし。
隣のK:
例えば、アニメーションや実写だと、クロが眠っていてその虐殺シーンの悪夢を見て飛び起きるとか、断片的に見せる事は出来るのですが、1シーンで詰め込まないといけないので、そのシーンを入れると蛇足になるんですよね。ちょうど良くモノローグで収まったと思います。聴いてみたかった気はしますが、心の方が主体の話としてはモノローグが正解かとは思いますね。
幸橋:
みや。さんは、編集された4話が上がってきた時、どう思いましたか。
みや。:
クロが兄と呼ばれることすら胸くそ悪い相手に対して、胸ぐらを掴むシーンが特に素晴らしかったと思います。最初、彼らの押し問答のバタバタした音が目立ってしまったので、多少抑えめにはして貰いました。でも、まさに妹を殺してくださいと言うところで、クロが、は? と言うところが、聴いてる人も同じく、は? となる。そこに無駄なものが一切なくて、演技を邪魔せずにシーンを作ってくれたのが嬉しかったです。
クロが怒るところはめちゃくちゃやりたかったところで、
だから、ひげさん*14にお願いしたんです。
幸橋:
ひげ太郎さんは明るくてひょうきんなキャラのイメージが強いんですよね。少なくとも淡々としたクロ役は意外でした。
みや。:
私個人の印象ではひげさんはお芝居の熱量がある人だと思っています。大人しい演技の奥にも熱があって、深みがあります。その熱量があるからこそクロだと思います。クロは決して大人しいキャラではありません。現世では普通に良いお兄ちゃん、普通の青年だったというベースがあります。
淡々としたお芝居だけならもっと上手い人がいたかもしれませんが、
下から上まで幅があり、熱量があって爆発出来るのはひげさんでしたね。一応、クロ役の候補ではあったものの、実は最初はそういうキャラをひげさんにお願いするつもりはなかったんです。でも、GENERAL DOGさん
*15の「呪
猫娘の幸ある15年」
*16で淡々としたキャラを聴いて、それが決定打になりました。
『全体を通して~採用されたミスと原点回帰~』
幸橋:
では、最後に全体を通して、隣のKさんは編集していて特に楽しかったシーンはありますか。
隣のK:
2話でも話に出た、双子が死んでからの、先生となる一連のシーンは編集していて楽しかったですね。人の残酷さがにじみ出ているのは楽しかったです。
4話でクロのモノローグとセリフの質感が変わる瞬間も好きです。死ねと言われてモノローグに入るのですが、感情的だったのが達観した感じになって、心のままに選択がしたという質感に変わる部分が良かった。ボイスドラマは絵が無いので表情がないんですよね。例えば、怒っているという表現も、小怒りと大怒りって、聞いている側からすればいずれも同じ怒りなんですよ。だから、泣いていたのが笑ったりとか感情の揺れ動きを音で聴くのは楽しいです。それが良いと良いお芝居だと思います。掛け合いも良いですが、1人の振れ幅を見るのは楽しいです。
幸橋:
確かにあの自害を命じられてからの一連の流れはクロの独壇場で、聴き入ってしまいますね。
隣のK:
白状して良いですか。
幸橋:
どうぞ?
隣のK:
実はこのシーンでミスってセリフを落とした部分があるんです。それが採用されましたが。
みや。:
ありましたね。
幸橋:
え!? どこですか。
みや。:
クロが契約を破って自害を命じられた直後にモノローグが入ると思うんですが、台本では、モノローグ前にクロが「わかった」と返すセリフがあるんです。リテイク後に届いた音源を聴いたらそのセリフがなくなっていて、あれ?「わかった」がないなと思ったんですが、実はこのセリフは入れるか入れないかギリギリまで悩んでいたセリフで、聴いてみると無しで良いじゃんと思いました。なので、セリフなくなっていましたが、すごく良かったですと返したら、ミスですと(笑)
隣のK:
狙ってました。
みや。:
ログありますけど?(笑)
幸橋:
嘘はやめましょう(笑)
隣のK:
冗談はさて置き、切ったんですねと言われて、えっ?と思ってチェックしたら、消えてたんですね(苦笑)曲とモノローグの入りに頭がいって、その部分は気にしてなかったんです。
みや。:
個人的には気に入っているので、良いミスだったと思います。
隣のK:
偶然の天からの贈り物ですね。
幸橋:
ポジティブ(笑)
隣のK:
みや。さんがどう考えているかはわかりませんが、自分は神様は明確に存在していて、話の中に説明はありませんが、お供はクロにしか見えない天使、神様のお使いだと思っています。なので、4話の最後に関しては、天界の扉が開く音を入れました。宗教的な匂いがするので、どうかなと思ったのですが、こういうテーマなのでと思って勝手に入れた演出にOKを出して下さったみや。さんの度量には感謝しています。
編集はこうなっているけれど、本当はこういう解釈だったというシーンは無いんですか。
みや。:
音に関しては、イメージがちゃんとあれば、台本やト書きに書くので、それ以上はこり固まって考えないようにしています。
隣のK:
今更なんですが、ラストでシロが登場するシーンでは、台本には駅のホームと書いてあるんですが、駅のホームだとわかるものが全く無いんですよね。汽車の発射音なんかを入れた方が良いのかと悩んだのですが。
みや。:
それはいらないですね。
隣のK:
駅に思い入れがあるのかなと思ったんですよ。旅立ちのイメージがあるのかなとか。でも、読んでも駅の重要性がないので、なぜ駅のベンチなのかと。
みや。:
それは演者のために書いたものです。イメージとして駅のホームが良いよねというだけで、音ではいらなかったんです。
台本は役者向けなので、LAST desireでもKiMさんに台本ではこう書かかれているが、どうすれば良いですかと訊かれることがあったのですが、演者用なので音としてはいらないですと答えていました(苦笑)
隣のK:
今、あー、良かったと思いました(笑)駅は人生の象徴にされることもありますから。
みや。:
LAST desireでのKiMさんのことがあったので、逆に駅とわかる音を入れられたらどうしようと途中で気づいたのですが、編集音源が来てからで良いかと思っていたら、ちょうど届いたんですよね。
隣のK:
感覚的には蛇足だと思っていたので、最後もシロの近づく足音からの雨で終わりで良いかなと思っていました。
みや。:
良かったです。通じ合ってました(笑)
幸橋:
では、最後に、みや。さんはクロの旅人を作ってみてどうでしたか。
みや。:
語れば色々ありますが、
シロのたびびととクロの旅人は、当初、ものを書き始めた時に近い空気感だったと思います。
原点回帰というか、彩透瑠津
*17とやっていた時のボイスドラマを作り始めた頃に戻った作品でした。
胸くそ悪い、救いがあるようでない、そんな創作を始めた時に作りたかったものです。
やりたいようにやれたので、こうすれば良かったという後悔がこれまでで一番ない作品でした。
聴いた人がどう思うかを考えなくて良いのは楽でした。確かに私が考えたこととは違う解釈や意見、面白くないという感想もありました。いつもだったら、なら、もっと面白いものを作ってやると思ったりもしたんですが、シロのたびびととクロの旅人を、最後に原点回帰として出せたことに悔いはありません。イラストや音楽、歌、演出、キャストに付き合ってもらえて嬉しいです。特に歌がとんでもなく良くて、すごく満足です。歌が届いた時にこの作品はやりたいことができると思いました。
隣のK:
今回の作品は万人向けではなく、聴く人を選ぶ作品でした。明確な解釈もオチもない、自分で結論を出しなさいという作品だったので、大団円が欲しい人は求めていたものではなかったでしょう。でも、そういう作品を作る人が多い中で、ボイスドラマ界の雄のおにぎりワゴンさんが今回のような作品を出したのは良いことだったと思います。参加出来て良かったです。
インタビューは以上です!
隣のKさん、みや。さん、ありがとうございました!
『後記』
実はたくさん削った話があり、その中の1つで、みや。さんから質問されたことに答えて後記に代えたいと思います。
みや。:
実は、幸橋さんが1話を聴いた時におにぎりワゴンらしくないと思ったと書いているのを見て嬉しくなりました。いつもと姿勢が違ったので、らしくなくて当然なんです。幸橋さんはクロの旅人は面白かったですか(笑)
幸橋:
意地悪な質問をしますね(笑)面白いという表現が正しいのかは悩みますが、二択なら面白いと答えます。
1話でらしくないと書きましたが、正直、私からすれば、LAST desireの方がおにぎりワゴンさんらしくないんですよね。あれは明らかにリスナー側に寄るつもりだというのが明確にわかるので、それはそれで良いと思っていますが。
だから、今回の作品がおにぎりワゴンさんらしくないという意見は、作品全体を見れば、むしろ逆だと思っています。最初に言ったように「視聴者に親切なおにぎりワゴンさん」という意味ではらしくないとは思いますが、その仮面を意図してはずしたこともまた明確でした。素顔が見れた途端に最後なのは寂しい限りです。
***
インタビュアー/幸橋
幸橋 (@kusanotsuki) | Twitter
ボイスドラマリスナー。
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