ボイスドラマ活動者インタビュー企画「ボイドラと人」第15回は、どこかしらで必ずその名前は目にしているのではないでしょうか、何でもやります!と言って本当に何でも演じてしまう実力派井折たくみさんです!
多数ある出演作品からいくつか作品をピックアップしつつ、それぞれの思い出をお聞きしました。
【本日のゲスト】
井折たくみさん(別名義:木下章嗣さん)
演者
一次創作団体「少女蘇生」メンバー。舞台とドラマCD作品にて活動。
演技への信頼故に発生する企画者さんからの無茶ぶりにも応えている実力のある演者さん(byインタビュアー)
出演可能な役:青年、中年男性、老人※スタジオ収録のみ依頼可
URL:
幸橋:
本日のゲストは、自分でもまさか呼べるとは思ってなかった重低音響かせたおじ様キャラをやったかと思えば、ハイテンションな特殊キャラもこなしてしまう、とりあえず、何でも振っておけばやってもらえる!?な演者さん「井折たくみ」さんです!
(紹介が雑だなと思ったそこのあなた、本当に何でもやってしまうから仕方ない)
井折たくみさん(以下、井折):
こんにちは!
幸橋:
読んでいる方にはわからないと思いますが、初の対面インタビューなので、人見知りインタビュアーは勝手にテンパっています。変な言い出したらごめんなさい(苦笑)ということで、よろしくお願いします!
<目次>
『初期のメイン活動場所はmixi』
幸橋:
井折さんはお仕事でも声優業をされていますが、こういう同人作品に出るようになったのはいつ頃なんでしょうか?
井折:
本当に最初は2003年くらいですね。当時の養成所の後輩が勉強のためにドラマCDを作るので、出てくれないかと頼まれまして。ちょうど同じ養成所で漫画を描いている人がいたので、その人の漫画を原作にして作りました。
幸橋:
その後も同じように知り合いの作品に出演されていたんですか?
井折:
養成所の後に、一度舞台の方に移って、そこが主な活動場所になっていたのですが、その後にまた事務所に所属しました。最初はなかなかお仕事がなかったので、自身で演技が出来る場所を探してネットでの活動に行き着きました。
幸橋:
ネット検索したら、企画サイトか募集サイトを見つけてという話は聞いたことがありますが、そういうことですか?
井折:
僕の場合は、
mixiにあった募集を見つけてですね。
mixiにグループとかあったじゃないですか。検索したらそこでの募集を見つけたんです。
僕は機械が苦手で、
SNSもあまりしていなかったのですが、
mixiに怖々登録して(笑)その後も
しばらくmixiで募集を探していました。
幸橋:
井折:
その募集の中に
「サソリノ心臓」*1という作品があり、
その作品で今も付き合いのある人たちと出会いましたね。夢神楽
*2の桐乃睦
*3とか、名前は変えていますが、水瀬真知
*4、梅田詩央
*5、本田賢士
*6とか。脚本は白井ラテ
*7で。
幸橋:
白井さん!? 青色有線の!? めっちゃ好きな劇団さんですけど、ドラマCDの脚本も書いてたんですね。ここではどんな役を?
井折:
ヒカリという普段は明るい感じの青年なのですが、自分の中の悪魔と天使みたいな存在がいて、天使にあたるキャラクターが色々やっている内におかまキャラになってしまって(笑)同じ役ではあるんですが、その3種類の役を一発録りで収録した時の充実感が忘れられなくて今でも思い出します。
幸橋:
そこで知り合った方の中に桐乃さんがいらっしゃいますが、桐乃さん企画の作品で
「青の純情」*8にも出演していますよね。人間のセリフというよりは、すごくテーマというか
プロパガンダというか、抽象的な言葉を発する役だったように思いますが。
井折:
もう死んでいるクロード・ダバンという役だったのですが、あれは本当に難しかったですね。 色んなパターンを録ったのでよく覚えています。
幸橋:
そうなんですか? それはなぜ?
井折:
彼は故人なので、彼の言葉は全部誰かが思い出しているもの、誰かの記憶の中にある声なんです。だから、それぞれのキャラの中で美化されていたり、印象に残った言葉だったり。クロード・ダバンというキャラを把握するというよりも、思い出している人のクロード・ダバンの印象を再現するのが難しかったです。だから、同じセリフでもシーンによって違うパターンを収録しました。
『演じる役の変遷』
幸橋:
私が井折さんを知ったのが、Velvetさん
*9の「女海賊アレスティア」
*10のクレフ船長だったからでもあるんですが、井折さんの最初のイメージは声の張りを生かした豪快な中年男性だったのですが、最近は柔らかい雰囲気の役が増えているんじゃないかなと思うんです。
井折:
僕は長男なので、何か誰かを規制することなく見守っていることが多くて、そういうスタンスが楽だと思っている節があるんですよ。だから、台本上はそういう役でなくても、OKが出れば見守っているという役にしてしまう傾向があるのかもしれません。そんな役を良いなと思ってもらえて、井折たくみはこういう役を演じるんだと思われる連鎖が続ているのかもしれませんね。
幸橋:
井折:
人の上に立って見守っているという感じの役は多いかもしれません。お兄さんだったり、お父さんだったり、それこそ、王様だったり。立ち位置が上の役が多いです。王様の場合はぐいぐい引っ張っていく強い王様が多かったですが、アブドルはその優しさ故に強さはそんなになくて、自分の中では新しい感じの王様です。まだ始まったばかりですが、楽しんでやってますよ(笑)
幸橋:
役の変遷はご自分の中で感じたことはありますか。
井折:
この時期のメインはこういう役だったという変遷はあまり感じたことはありません。その時、その時、企画者さんから与えられた役を頑張って演じているだけなので。昔は、中年男性が出来る人が少なかったので、そういう役を振って貰えたということはあるかもしれません。
幸橋:
私が井折さんのイメージと違う柔らかい印象だなと思った最初の作品がつむぎびとさん
*12の「
八咫烏と魔女」
*13とおにぎりワゴンさん
*14の「
ワンルーム・ラブストーリー」
*15なんですよね。それまで豪快な男性という感じだったのが繊細というか、ちょっと影がある感じになって(笑)
井折:
八咫烏と魔女は
宅録し始めた初期の頃ですね。2人しか出てこないのに話が二転三転して、脚本も素敵だなとは思っていたのですが、
相手役が隣にいないので、悩みましたね。
ワンルーム・ラブストーリーも
宅録だったのですが、
ちょっとした呼吸も意味のある感じにしようと演じた覚えがあります。キャラ2人の距離が近くて、息をつくにも気を遣っていました。ああいう現実のちょっとしたエピソードを演じるのはあまりないですね。
幸橋:
やっぱりあれは
宅録だったんですね。井折さんはスタジオ収録がメインですよね。
宅録だとスタジオ収録とやはり勝手が違いますか?
井折:
そうですね。スタジオ収録ではその場でリアクションすれば良いことが、
宅録だと相手はこういう風に来るかなと想定して収録するので、収録前に想定する時間が倍くらいかかります。あとは、
セリフをただ並べるだけだと相手に向かってしゃべっている感じになるので、しっかりしゃべらないようには気をつけています。
幸橋:
相手に話している感じだとダメなんですか?
井折:
実際にしゃべる時は、相手の顔を見てというよりも何かをしながらしゃべることが多いじゃないですか。相手に向かってしかしゃべっていない感じだと逆に不自然なので、そうならないようにしています
幸橋:
なるほど。これまでの演じた役について聞きましたが、逆にあまりやってこなかった役はありますか? 苦手でも構いませんが。
井折:
イケメンは苦手ですね、シチュエーションボイスのような。女性のリスナーさんが喜ぶ雰囲気がわからないので、何をやってもこれで良しと思えないんですよ。ディレクターさんがOKを出してくれたら、それで良しというか。自分からは特に口出しはしません(苦笑)
幸橋:
女性向けシチュエーションボイスに関しては、普通のドラマの時とは違う、それ独自の独特な雰囲気がありますよね。
井折:
テンプレな感じはたどらずに、自分の心の整理がつく形で演じてますね。そういうところは強情だなとは思います。
幸橋:
井折:
あれは何で僕に役を振ってくれたのか。有難いことですが。
この作品ではないのですが、同じ団体が作った
「王宮の恋歌 語らずの君」*17という作品が、音声から少し離れて戻ってきた一発目の作品なんです。
この作品で初めておじさん役をやって、それがその後のベースになっています。この作品の次がゴーストハントで、主役もイケメンも初めてでしたね(笑)
幸橋:
ナルは声は井折さんなんですが、意外にしっくり来るんですよね。演じてみてどうでしたか?
井折:
僕が演じる役はオーバーなリアクションとか動きがある役が多いのですが、ナルは無駄な動きやセリフがないので、その中で表現するのが難しかったですね。
幸橋:
あの奇妙な形をした洋館の話ですが、これ音声化するって凄いですよね。普通に違和感なく聴けましたし、二次創作としてはレベルが高いと個人的には思っています。
『意外にやったことがなかった正統派ハードボイルド』
幸橋:
すでにいくつか作品名が挙がってきていますが、これまで多数の作品に出演された井折さんが思い出に残っている作品は何でしょう?
井折:
まずは、
「Ancient Sevens」*18です。2つ目の作品に出演したのですが、ハードボイルドでかっこいい作品です。
幸橋:
ハードボイルドというとまさに井折さんという感じがしますが。
井折:
どこかで時々笑いが入るという役はやったことがあるのですが、特化した役はあんまりやったことがなかったんです。ギャグといった別の要素がなかったので、特にハードボイルドの印象が強いんですよね。口数が少ない役なので、一言一言作品の雰囲気、空気を大事にして演じていました。常に言葉が緩まないようにして。ビッグタイトルの2作目なので、1作目の空気を壊さないように気をつけましたね。
幸橋:
演じたキャラもどの派閥にも属さない殺し屋なので、まさにですね。
『OKを出される側からOKを出す側へ』
幸橋:
他には?
井折:
所属している少女蘇生
*19の
「浄玻璃の鏡、邯鄲の夢」*20ですね。純文学の
舞姫を扱った作品で、
主演と初めて音響監督をやることになりました。これまで演者として、
演技にOKを出して貰う側だったのが、OK出す側になってしまって。機械音痴なので、「こういう編集は出来るのか」と編集担当で当団体代表の仲野識*21に確認しながら、判断していました。
幸橋:
主演ということは、出ずっぱりで判断もするんですか?
井折:
自分が出ている時は、
トークバックで仲野とやりとりしながら、これはOKかどうか判断していました。仲野が企画・脚本だったので、イメージを共有しつつその意見も大事にしながらやっていましたね。
『音にしてみての驚き』
井折:
自分が演じてみての印象と同時にもSEが付いて作品になった時の驚きや印象が強かったのはRMRさん
*22の
「超鬼兵オーヴァイド」*23です。
幸橋:
RMRさん、ロボットものですね。
井折:
オーヴァイドでは、バークという敵役で、上司も部下もいる中間管理職的な位置なのですが、ロボットに乗って戦っていますし、これは実質ライバルポジションなんじゃないかってテンション上がりましたね。
幸橋:
確かに(笑)
井折:
昔、SEを入れやすいように演技をしろと言われたことがあって、それから気をつけていたのですが、オーヴァイドはロボットが出て来る世界で色んな音があるので、SEはあんまり考えずにお芝居をしていました。後から視聴会で出来上がった作品を聴いたら、想像以上に様々な音が入っていてこんな風になるんだなとびっくりしました。演じた先が面白い作品でした。
あとは、Velvetさんは作品を作りきる事に妥協しないですよね。出来上がった時に、セリフの間とかタイミングが編集で変わっていたりするのですが、それがかえって気持ちよく聴こえたりするんですよね。プロデュースセンスに助けられました。
幸橋:
井折:
ありがとうございます(笑)
撃墜王の孤独で演じたレイテがある出来事で怒って部屋を出ていくシーンがあるのですが、
台本には何も書いてないんですが、これは絶対ゴミ箱蹴ってると思って演じて、後から、ここでゴミ箱蹴ってるからって伝えたら、出来上がった作品に良い感じに蹴られるゴミ箱が蹴られて転がっていくSEが入っていたんですよね(笑)
幸橋:
飛行機では無く、まさかのゴミ箱でしたか(笑)
井折:
その時のくそっという思いを表現したかったので(笑)
『声が変わらない理由』
幸橋:
悪い意味では無く、井折さんの声は聴くと井折さんだなとわかる特徴的な声ですよね。
井折:
僕は自分の声は特徴的だと思ってないんです。井折たくみの声だとわかるのは声を変えてないからではないでしょうか。
幸橋:
声を変えてないんですか?
井折:
変えてないというよりも、作らなくて良いなら作っていないという意味です。
演技は声優さんよりも顔を出す役者さんに影響を受けています。なので、
声を出す体勢とかキャラの筋肉の付き方は意識しますよ。頬の肉が落ちているだろうなとか、首周りに肉が付いているだろうなとか、太っているけれど、スーツで背筋をピシッとしてなくてはいけないだろうなとか。それが「空虚5度のバラッド」
*26のランドンのイメージです。
キャラのイラストはその筋肉の付き方を考える手助けとして見ていますね。(実演有り)
幸橋:
おお! 凄い! 本当に声が違うけど、井折さんだ!(笑)自分でも言っていることに違和感がありますが。 なるほど、井折さんの声が特徴的だからわかるのかなと思っていましたが、声作ってないからわかるんですね。
井折:
ある役に特化した人にはなれないので、幅広い演技ができるように何でもやっています。
『好きなサークルさん、演者さん、作品』
幸橋:
井折さんは、どういうサークルさんや演者さんが好きなんでしょうか。
井折:
そこまで作品を聴いている訳では無いのですが、出演させてもらったこともある
碧空プラネタリウムさん*27は、
世界観の作り方にこだわりがあって、企画者のミツキさん*28からすごく熱量を感じますよね。妥協しないぞという感じが伝わってきます。
好きとは少し違うかもしれませんが、ばなわに
*29の
浅沼君*30は知識も企画へのこだわりもすごいので、ギャグではなく、シリアスな作品で作りたいとあたためているものには期待しています。
幸橋:
なるほど。では、同じ演者として、この人の演技は好きという方はいますか。
井折:
この活動を始めて出会って良かったなと思ったのは、
杉宮加奈さん*31です。
幸橋:
それはなぜ?
井折:
きれいな声で、様々な役が出来る方なのですが、杉宮さん自身の暖かい感じが出ているんですよね。そして、スタジオにいらっしゃると安心するんですよね。僕もスタジオ収録が多いので、そういう人になりたいな、見習いたいたいなと思います。
『今後の予定』
幸橋:
最後にこれからのご予定を教えて下さい。
井折:
木下名義なのですが、弧ノ葉詩さん
*32の
「A」*33に出演します。
さっき散々話した希少な主役で俺様なイケメンキャラで(笑)主役はメインヒロインなのですが、その相手役みたいな位置づけですが。
幸橋:
では、これまであまりなかった珍しい井折さんが聴けるということですね(笑)
井折:
僕にこの役をよくキャスティングしてくれたなと思います。年配な役が多かったので、芝居に年齢を感じてしまう部分が出る癖があったのですが、それを削いでいって、年齢を感じないように頑張って演じました。作品自体は華やかでかっこいいので聴いて欲しいですね。
幸橋:
その辺りも聴きどころですね。他には?
井折:
TeamⅣprojectさん
*34の
「VARIANT Re:CORD」*35にも出演予定です。話がドラマティックに進んでいきます。長期で順に発表されていくので、長い目で楽しんで欲しいです。
幸橋:
前からちょくちょく見かけていたので、気になっていたんですよね。楽しみにしています(笑)
井折:
まだ言えませんが、やりたかったことを近々する予定です。
予定にはないですが、最近、平和な物語が多かったので、
大河ドラマのような斬り合いがあったりするような作品にも出てみたいなと思います。
幸橋:
そんな企画があれば、ぜひ井折さんまで(笑)
インタビューは以上です! 井折さん、ありがとうございました!
『後記』
前から井折さんにはお話を聞きたいなと思っていたのですが、この同人色強めの企画に呼んで良いのか……? と悶々と悩んでいたのですが、例の「疲れて頭わいてる~」企画でいいねを貰い、呼んで良いの!? といそいそとお声がけした今回のインタビューでした。hana10さんのお話も面白かったですし、ああいう気まぐれ企画もやってみるものですね!←
実は井折さんの声は特徴的ではない?という部分の話は
目から鱗で、実演聴いて欲しいですね。どれも井折さんだとわかるのに声が全然違うという不思議体験でした(笑)