ボイスドラマ活動者インタビュー企画「ボイドラと人」

「ボイスドラマ」をテーマに、インタビュー記事をメインコンテンツとして配信しています。今後、ボイスドラマに関わるイベントや新作の告知、作品紹介コラムも増やしていく予定。

【観劇レポ】朗読ライブイベント「Reading Alliance Vol.1」

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(写真提供:大原薫さん)

 
ボイスドラマ関係者による朗読ライブイベント「Reading Alliance Vol.1」エコーテイルの大原薫さん、Spiral SpiritのTAKERUさん、碧空プラネタリウムの水蜜さんを始めとしたスタッフ陣と、実力派揃いの演者7名、武田恵瑠々さん、美藤秀吉さん、神崎智也さん、高橋そらさん、ヨッシ~バランさん、橘こむぎさん、緋乃玲さんを迎えた豪華仕様のイベント。
当日の様子を18:30~の回を観に行ったボイドラ廃人Yがレポートします。

 

【ボイドラ廃人Yの観劇レポート】
 
「cafe&Bar木星劇場」は、過去に1度だけ行ったことがある。その遠い記憶を引っ張り出しながら、池袋駅のC3出口を出て右に曲がると本当にすぐに着いてしまい、予想外の近さ。普通の雑居ビルの中にあるので、うっかり看板を見逃してしまうと、いつの間にか通り過ぎて迷うという方向音痴へのトラップが無きにしもあらず。
1階で受付をして(貢物は直接本人に渡して下さいということで、挨拶をせずに帰る選択肢がなくなる極度の人見知りY)地下へと降りていくと左手に飲み物を出すカウンター、そのまま進んだ会場は特別狭い訳ではないけれど、覚えていた通り3~4列も椅子を並べると最低限の通路を残すのみでスペースはあまりない。最前列に座ると足先はもうステージにぶつかってしまう。前情報通り、ステージ上の演者と観客がとてもとても近い会場だった。
 
観客を出迎えるのは、嶝崎ミツキさんと樹透音さん。ボイスドラマ作品の演者としてもお馴染みのお2人が誘導する声ですでにボイスドラマの関係者によるイベントという感じがする(上演中は嶝崎さんはマイクのセッティング、透音さんは音響スタッフをしていたそう)
入ってすぐに目に入る舞台上のスクリーンには、今回の演目や関連するボイスドラマ作品のCMが流れ、聞き覚えのあるシーンをBGMにしながら腰をおろす。いつもは演者と近すぎるのを嫌って最前列には座らないけれど、今回はいっかと思ってしまったのだ。最前列の隅っこに陣取って辺りの様子を伺うと、数人連れだって会場に入って来る観客の話し声の中には一方的にボイスドラマ作品で聞き知る声が時折まざり、会場案内はやはりボイスドラマではお馴染みの如月梢‏さんの声。音だけだと、ここはM3か? と錯覚してしまいそうになる。それだけボイスドラマの演者さんの声を直接聞く機会がないということなんだろう。
 
会場が埋まり、明かりが落ちると、先ほどまでCMが流れていたスクリーンに映し出される幕が上がる映像。開演だ。
続いてノイズの入った通信音とスクリーンに映るのは会場の闇に溶けていきそうな暗い宇宙、そして、浮かび上がる「フロウ・サテライト」の文字。最初にステージに立つのは武田恵瑠々さん。
名作の1つとしてあげられることが多いので、オムニバス作品「夜間漂流」(ハーモスフィア)を知る人は多い。「フロウ・サテライト」は、 そこに収録された作品の1つだ。汚染で地上に住めなくなった地球の地下シェルターに住む雪加に届いた宇宙のユニットに住む友人からの通信。いつ通信が途絶えるかわからない不安、絶え間ない揺れといつ見捨てられるか知れないユニットに住む恐れ、そんな中での細いつながりを心の支えにする繊細な少年の声がゆっくりと現実から虚構の世界へと誘う。スクリーンに映し出された冷たい宇宙に濃く影を落とし1人立つ武田恵瑠々さんの姿は孤独にふるえる少年を象徴しているようにも見える。
 
2作目は、「とこしえの恋」ギムナジウムで暮らす少年たちの1年間を描いたオムニバス作品「少年回顧録-ギムナジウムプロジェクト-」(Spiral Spirit)に収録された1月の詩「とこしえ」に加筆した演目だ。絵画を愛する1人の少年視点だった物語は、彼が見ていたもう1人の少年視点も加えられ、絵画でつながった2人の少年の物語を相互の視点から描く。演じるのは神崎智也さんと美藤秀吉さん。横並びに立つ2人。最初は加筆された少年の視点が美藤さんの儚い語り口で語られる。絵を愛する穏やかな優しい少年。彼はもう1人の部長である少年に冷たくあしらわれながらも懲りずに声をかけ続ける。繊細で透明な美藤さんの声と低く落ち着いた神崎さんの声は対照的だ。CDに収録された「とこしえ」では少しひねくれ、未成熟な雰囲気を残す少年をレラージュさんが演じているが、神崎さんの演じる彼はだいぶ成熟して少年というよりも青年と呼ぶ方がしっくりくる頑なさと気難しさ、硬質さを感じる。けれど、相手の少年の絵の才能に、彼の天才的な色使いに嫉妬している彼は、その一方で、自分の中にあるそれだけではない感情を持て余している。一言「きらいだ」と告げる声は彼の中にまだ残るやわらかい部分を露呈しているようだ。
 
3作目は、主催大原さんのサークル「エコーテイル」が制作した朗読作品集「エンドロンド ~Omnibus Reading Stories Ⅲ~」に収録された「LAST PAYLOAD」。CDと同じく演じるのは高橋そらさん。一言目から明るく天真爛漫な女子大生の主人公がステージ上に現れて、観客を一夏の大学生たちの思い出に引きこんでいく。再集結したロケット研究会メンバーたちは機材もパーツも何もかも不足している中で、小型ロケットを打ち上げるために奮闘する。けれど、なぜ、そんな劣悪な環境でロケットを上げようとするのか。その理由がわかった時、彼らの宇宙を突き刺す叫びを知る。リスナーの中でも評価の高いこの作品を朗読劇で上演することに期待以上に不安が大きかったということは白状したい。しかし、最初の明るい語り口が、ある事件をきっかけに暗く陰り、けれど、佳境に入っていくと意志がまるで光のように煌めく一連の流れはさすがと言わざるを得ない。神と呼ばれる存在への語りかけは演出の違いからCDとはまた違った味わいを見せたが、高橋さんの圧倒的な迫力を感じる熱演は生の舞台でも健在だった。
 
早くも折り返しに入り4作目は、演目の中でも人気が高かった「雨ノ森」。水蜜と大原薫のジョイントユニット「Celesope」による男性朗読企画「カトル・ノアール」の収録作品でもある。こちらも演者は変わらずヨッシ~バランさんが演じる。雨宿りがてら入った喫茶店で眠り込んでしまったサラリーマンの男性、目覚めるとそこは喫茶店ではなく「雨の森」と呼ばれる場所だった。ヨッシ~バランさんならではのあの低音の声で語られる日々の生活に疲れ擦り切れた男性の哀愁が、コーヒーの香りをまとって漂ってくる。その空気に酔った観客も多かったようだ。かく言う私もその1人。朗読ならではの耳に優しい心地良さがあった。
 
5作目は、世間から閉ざされた全寮制の学院で過ごす少年達の葛藤を描いた「再生ティルナノーグ」(Spiral Spirit)のスピンオフ作品「記憶の澱」。本編「再生ティルナノーグ」は企画者・演者の中にもファンは多い。「記憶の澱」は同じ世界観で、同じく全寮制の学院を舞台に、語り手の少年が自分の机の前の持ち主である学徒が書いたと思われる1冊のノートを見つけることから物語が始まる。そのノートに刻まれた幼くも激しい感情に心が波立つ少年を演じるのは橘こむぎさん。穏やかで健やかな少年が初めて出会う醜い感情に戸惑う様子を丁寧に演じつつ、最後にはノートを静かな湖面に投げ入れる。その時に垣間見るのは、ノートの向こうに見える愛を知る少年に覚えたどろりとした妬みと不快だと吐き捨てる鋭さ。多くの作品でカミソリのような切れ味を閃かす少年を演じて来た橘こむぎさんだから出せる空気感だった。
 
最後の6作目はLetters.。それまで1~2名での演目だったのが、緋乃玲さん、高橋そらさん、美藤秀吉さん、武田恵瑠々さんの合計4名で上演されたこの作品は水蜜さんの脚本。語り手の女性弥生を演じる緋乃さんが下手に座り、上手には過去の文通相手だった女の子葉月役の高橋そらさん。後方に弥生の友人役の武田恵瑠々さんと葉月の手紙に登場する不思議な少年シキ役の美藤秀吉さんがスタンバイする。葉月と弥生が手紙(の形をとった台本)を取り出し手紙の内容を読み上げる。緋乃さん演じる弥生は優しく落ち着いていてセピア色のノスタルジーを、葉月の元気さは幼い夏のキラキラした空気を象徴しているよう。理解の深い友人睦子との会話が現実を、稚い口調でありながら妖艶さを合わせ持つシキと葉月の会話が陽炎のような夢幻を見せ、4名の演者が醸し出す雰囲気が織り上げる物語にほうと息をつく。
 
全ての演目で開始前に演目をイメージする映像がスクリーンに流れた。主催の大原さんはご自分がプロジェクションマッピングといった演出が好きだから採用したとのことだけれど、タイトルだけではイメージしにくい物語にもスッと入りやすくする効果があり、私だけではなく、周囲の反応を見ても好評だったようだ。
 
上演後はそこここでキャストと観客が話しているのを見かけ、小劇場ではよく見る光景だが、これがネット上で下手すれば顔もわからず、知っているのは声だけという相手との会話だと思うといつもと違った印象を受ける。その一方で、座り込んでアンケートを長い時間書き込んでいる人が多くいたのも印象的。
 
確かに言い間違いやミスと思われるぎこちない部分は普段観に行く舞台や朗読よりも散見されたのは事実だが、演者と観客が相互に誠実に作品に向き合うことで作られる空気をまた感じたいと思う――
 
 
ので、vol.2はいつかなー←

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(ボイドラ廃人Yこと)幸橋
https://twitter.com/kusanotsuki
ボイスドラマリスナー。
2009年よりボイスドラマ作品を聴き始め、2013年より開始した感想メモブログ「視聴note」にてボイドラ関連の記事が900件を突破(2018年1月時点)