ボイスドラマ活動者インタビュー企画「ボイドラと人」第24回は、演者としては美少年役のイメージがあるけれども、意志の強い女性役も印象強い、企画、脚本、作詞など幅広く活動している春希ジュンさんがゲストです。
インタビュアーが気になる感情がストレートに現れた演技の理由や、「宇宙を作りたい」という言葉が意味する作品を作る上でのこだわりを伺いました。
※インタビューは5月上旬に実施したものです
【本日のゲスト】
春希ジュンさん
企画者、演者
2002年より活動を開始。少年役を中心に数々の作品に出演。自サークル「Greedian」にて「ごく身近に潜む狂気」をテーマに作品を製作している企画者でもある。
出演可能な役:少年、少女、若い女性、中年女性、老女 ※依頼可
幸橋:
はい、今回は実は第14回ぶりに帰って来た企画「きっと疲れて頭わいてるだけだと思うんだけど許してね」企画によりあみだくじでゲストを決めました。
もうすでにわかっていらっしゃるでしょうが、結果はこちら。
ということで、本日のゲストは長年演者、企画者として活躍している春希ジュンさんです! まさかこんなタイミングでお話することができようとは。よろしくお願いします!
春希ジュンさん(以下、春希):
よろしくお願いします。
<目次>
『お芝居がしたくて演劇部まで作った学生時代』
幸橋:
2002年から活動開始というと、周りでもあんまりボイスドラマに関わる人はいなかったと思いますが、活動始めた経緯は?
春希:
お芝居自体、小学生の頃から好きだったのですが、通っていた小学校には演劇部が無かったので、演劇部を作って、自分で脚本を書いて上演していました。
幸橋:
小学生で演劇部を作る? すごい行動力。
春希:
中学・高校でも演劇部がなくて、高校でも演劇部を作ったんですが、中学では自由に部活が作れなかったんです。なので、しぶしぶ友達同士で、カセット録音レベルから始めました。舞台にはこだわってなかったので。
幸橋:
なるほど。それでは、今みたいなネット上でボイスドラマを作る活動を知ったきっかけは何だったでしょう?
春希:
中学時代にオリジナルキャラになりきってチャットで遊ぶ「なりチャ」が流行っていたんですが、その仲間の中にボイスコをやっている子がいて、その子に習って始めてみました。
幸橋:
その頃はボイスコさんとしては、どんな方がいらっしゃったんですか。
春希:
天野雅、アリア
*1がすでに活躍していて、Yahoo!チャットで劇をやるのが流行っていましたね。
もうちょい経ってぱぐりん
*2べえ様
*3と出会いました。
『世界観が好きで、稀だった女性役だった「惑星ノスタルジー」』
幸橋:
その頃はどういう作品に出演していたんですか?
春希:
最初は作品が完結しないんですよ。結果発表で終わりとか。今みたいにボイスドラマは大人の遊びではなく、子どもの遊びで、中学生と高校生しかいなかったので、作りっ放しですよね。ちゃんとした企画が出始めたのは高校生に入ってからでした。
募集している作品は、当時メジャーだった「せんこの部屋」
*4で探して、「すけぼ(助っ人さんを募集してますっ☆)」
*5ができてからはすけぼで探していました。
幸橋:
役柄としては多かったのは、少年ですか?
春希:
ほぼ少年です。昔の活動履歴を見ても、女性役はほとんどないですね。女の子役は募集に受からなくて。出演していて個人的にも大好きな作品なのですが、女性役をやり始めたのは
「惑星ノスタルジー」*6くらいからですね。
幸橋:
すごく落ち着いた作品ですよね。こう言うと変ですが、ご自身で企画している「Greedian」と異なる作風ですが、こういう作品が好きなんですか?
春希:
やりたいことが明確で、音楽とドラマ合わせて1つの作品としてまとまっているところが好きです。
個人的には
ボイスドラマはしっとり聴けるもの、空気感がある作品が好きです。想像が広がるので。描写が少ないとは違うんですよね。風景が見えてくるような脚本の作品が好きで、言葉で情景を聞いて、それが頭の中で見える作品が好きです。
惑星ノスタルジーは音楽を聴いていても、ドラマ聴いていてもその情景が浮かぶ脚本でした。
同じ理由で、
ユウグレデイドリーム*7とか、
再生ティルナノーグ*8も好きです。
幸橋:
ああ、良いですよね(笑)私も好きです。
春希:
自分がやりたいのとは違うけど、好きな作風というのがありますよね。
逆に自分が作っているものに近い作品だと、企画者目線で、私だったらもっとこうするのになと気になってしまいます。
『演技は直感派。聞こえてきた声をアウトプット』
幸橋:
女の子、女性役はあんまり受からなかったということですが、今も少年役が多いんですか?
春希:
そうですね。昔に比べると今は
少年と女性が6対4で女性役が増えましたが、若干少年が多めという印象ですね。めっちゃ上から目線からの顔が良い少年とかが多いですね。「トーキョーテリトリウム」
*9では宗教の教祖みたいな役をやってます。
幸橋:
私が勝手に春希さんが演じた役で気になったのが、女性役が多いんですよね。「空想世界と煌メキモニカ」
*10のモニカとか、「一縷の望みをかけて」
*11のサジャムとか、ちょっと前だと「彼ノひと春ニ恋シケリ」
*12の日生とか。
春希:
少年役と違って、気が強い女性が合いそうと言われながら、頂く女性役はほんとにばらばらですね。
モニカみたいな優しい感じもあれば、「キーラの
錬金術工房」
*13に出てくるカルネという女の子は結構テンション高くしゃべっています。
女性役はちんぷんかんぷんですね。自分の中に女の子の引き出しが本当になくて、何が良いのかわからないし、何をやっても男の子になってしまって、女の子のお芝居が出来ている気がしないんですよね。
幸橋:
女性役に限らないのかもしれませんが、春希さんの声は感情がストレートに出ている気がするんですよね。なので、説得力があるというか。
春希:
私めちゃくちゃ
直感派なんですよ。論理的に組み立てて分析してお芝居する人が多いと思うんですけど、
私はキャラクターを見て、設定と台本を読むとキャラクターが頭の中で勝手に話し出すんです。その
頭の中に聞こえて来た声をなるべくそのままアウトプットするというお芝居をするんです。
幸橋:
役が降りてくるってやつなんですかね。
春希:
男の子は頭の中でべらべらしゃべるんですけど、女の子の台本読んでもどんな声でしゃべるのか何もわからないんですよね。シンクロできなくて女の子役をやると苦労します。
企画者さんって結構OK出してくれるじゃないですか。 リテイク出さない、役者を尊重するという人も多いので。でも、自分では正解だと思ってないのにOKが出るので、本当に?と思いながら本編の収録に進むこともあります。
幸橋:
女性とシンクロできないというのは意外ですね。
春希:
子どもの頃から少年でしたね。小学校でも男の子の家に行ってゲームをするし、時々女の子と遊ぶ時は何をして良いかわからない子でした。
思春期の中学生では女の子が一番女子女子しているじゃないですか。周りからの目があって、小学生の時のように男の子とも仲良くできなくて友だちができず。
苦手意識が入っているのかもしれません。という人生の振り返り(笑)
『Greedian「ごく身近に潜む狂気」をテーマにしている理由』
幸橋:
明確なテーマを掲げて作品作りをするサークルさんは少ないですが、その中でも「ごく身近に潜む狂気」という変わったテーマを掲げているのはなぜなんでしょう?
春希:
日本ってすごく平和な国だなと思うんですよね。本当にグロい殺人事件は情報規制がかかって出てこないんですよね。ニュースに出てこないですし、ひどい事件は逆に隠されるし、ネットでグロ画像探しても出て来ません。だから、日本では皆そういうのを知らずに生きていますが、海外の情報サイトだと殺された人の画像とかめちゃくちゃ出て来るんですよね。
海外の治安の悪い国だと事件とか事故とか結構日常的に起こっていることで、道端で血を流している人がいても無視するらしいんですよね。あまりにも多すぎて。
海外とはいえ同じ人間なので、そういう恐さを知らずにいるのはどうなのかと思うんです。知らずに規制かけられて生きている方が幸せかもしれませんが、そういうものがあるんだと知ると新しい感情が生まれ、人間としての経験値が増えるので、本当は良い事なんじゃないかと思っていて、私はそれが心の成長につながると信じているんです。
幸橋:
深いですね。いつ頃からそんなことを考えていたんですか?
春希:
中学生くらいからでしょうか。
最初は死んだらどうなるんだろうとかお化けとかいるのかなという子どもらしい可愛い入り方から人ってどういう風に死ぬんだろうってことを考え出して。現実的な部分とファンタ
ジー的な魂の有無も踏まえつつ、
人間の生命について考えることは子どもの頃からあった気がしますね。
『「人形喫茶プリズン」は実は最初の3話だけ※ネタバレあります』
幸橋:
去年出された「人形喫茶プリズン」
*14が、これまで言ってしまえば後味の悪いエンディングが多かったGreedian作品の中では前向きな終わり方だった気がするのですが、何か変化があったんですか?
春希:
あれは
実は全然ハッピーエンドではないんですよ。他の作品とくくりとしては同じです。本当はあの後もいろんな依頼が来て、いろんなお話があって、
十何話くらいやりたかった作品なのですが、CDで出すにあたってまとめなくてはいけないので、最初の3話だけ。ですが、本当の最後はメインの
アルクとクラウスの
2人は孤独死するんです。
幸橋:
春希:
これは聴いた方の想像にお任せしているのですが、作者の設定としては、あの2人はセックスまでするんですよ。でも、2人は恋人でもないし、家族でもない。友達とも違う。よくわからない関係のまま進んでいきます。
この作品は、
ノアの箱舟もテーマの1つなんですけど、
ノアの箱舟は、人間含めていろんな動物のオスとメスを船に入れて逃がすから生き延びられたという話じゃないですか。でも、
アルクとクラウスは
どちらも男(オス)なので、滅びるしかないというエンディングでした。
2人とも罪を抱えているので、あの町から出ることができず縛られているので、謎の
共依存のまま死ぬまで書きたかったんですけど。
幸橋:
十何話は結構なボリュームですね(笑)
春希:
なので、想像にお任せという形にしました。
「人形喫茶プリズン」は、今も好きな少女漫画で「人形師の夜」という人形として死んだ人をよみがえらせるという作品に結構影響を受けたかもしれません。死んだ人をよみがえらせた結果良くないことが起きたりとか、逆に感動的なことがあったりとか、人が死ぬことによって起こるストーリーがやっぱり子どもの頃から気になっていた気がします
幸橋:
「人形喫茶プリズン」というと、鶏子さん
*15演じるユリィの死ぬシーンが壮絶でしたね。
春希:
あれで聞くのを諦めたという人もいました。頑張って、そこを乗り越えれば平気だよって言ったんですが。
幸橋:
聴き慣れてない人はダメかもしれませんね。さすが鶏子さんというか、ただただすごいですけどね。
春希:
想像を超える死に方でした。でも、それそれ、それが欲しかったという死に方でもありましたね。
身近に潜む狂気は、愛と狂気は表裏一体だよねという意味も含んでいます。怒るだけでも疲れるのに、人を殺す時に湧き上がる感情の爆発はすごいだろうなって思っていて、それほどのエネルギーをかけるのはもはや愛じゃないかと。狂っている人は基本的に愛情が深いんだろうなと思っています。