『企画者としてのこだわりは、「全てに答えられるように」』
幸橋:
作品作りに思い入れが強い春希さんですが、他にこだわりみたいなものはあるんですか?
春希:
「全てに答えられるようにする」ですね。私の尊敬している作家兼監督の
今敏さんが、
作品を統括している立場の人間はどんな細かい質問が来ても全部答えられるべきといった話をしていて、それに感銘を受けて、全部答えられるつもりでいます。
幸橋:
細かい設定を作りこんでおくということですか?
春希:
そうですね。企画では、毎回、質問をもらうようにしているんです。
「VANISH: CODE」
*1の時が質問が多くて、名前の由来なんですかとか、このキャ
ラクターは三大欲求は存在しているんですかとか、もし、この時の展開がこうなっていたらどうなっていたんですかとか、全部答えています。
「ブルー・コール」
*2でも、
ヒューマノイドって何で存在しているんですかとか。キャ
ラクターのこの時の感情とか、演技とは別にこのキャ
ラクターはどういう状況なんですかとか。
幸橋:
結構細かく質問が来るんですね。
春希:
来ますね。それだけ興味を持って貰えるというのは光栄なことです。
幸橋:
この人の質問量はすごかったという人はいますか。
春希:
音枝優日ちゃん*3です。
論理的に組み立てる人なので、多かったですね。それに対して、2時間くらいかけてメールを打ったり。
幸橋:
そこまで答えるのは大変ではありませんか。
春希:
私も演じる時に、このシーンの後はどうなっているんですかとか、この話の後はこの2人どうなっていくんですかとか聞くんですけど、企画者さんによっては考えていないということが多くて、少しもやっとすることがあるんですよね(苦笑)私個人としては聞きたいなと思うので。
幸橋:
私も話を考える時は書いた部分以外は考えてないことが多いですね(苦笑)
春希:
このCDの60分間の中だけで作る方と、キャ
ラクターたちが普通に生きていると考えて作っている方とで分かれるのかなと思っています。
私は世界線が何個もあると思っているので、キャラクターたちはどこかの世界で生きているだろうと、彼らの人生を何パターンも考えています。
ここでこっちの選択をしていたらこの子はこういう人生だ、とか。だから、自然と裏側の設定も増えていくのかもしれません。
幸橋:
果てしないですね。
春希:
宇宙を何個も作りたいんですよね。
幸橋:
宇宙ですか(笑)
春希:
人からよく好奇心が強いよねと言われるんです。普通の人がわざわざ調べないようなことを調べて、つきつめて解明していくのが好きなんです。
作品を作る時に調べる資料が特殊で、人を殺した時の脳内物質とか、なぜ人は人を殺せるのかを共食いのところから調べたりとか、外国の虐殺された事件とか、生命の循環とか。うん、宇宙ですね、やっぱり。
幸橋:
宇宙ですね(笑)
春希:
そんな資料を黙々と調べているんですよね。スピリチュアルなサイトも資料として見ます。科学的な側面も観つつ、スピリチュアルな世界で生きている方々の感じ方も知っておきたいので、宗教の本を買ったりとか。
幸橋:
膨大すぎてパンクしませんか。
春希:
蓄積された知識は絶対活かせるはずですし、基本的には活かしている気がします。
最終目標は宇宙を作るなので(笑)
『Greedian作品全ての物語を内包した物語』
幸橋:
すっごい余計なお世話かもしれませんが、Greedian作品ではお馴染みの美藤さん
*4は「人形喫茶プリズン」ではエキストラでしたね。貿易商でしたっけ。
春希:
あの貿易商は実はGreedian作品全部に関わって来るんですよ。
幸橋:
……ん? 今、すごい爆弾を落とされた気がするんですが……
春希:
全部つながっているんですよ、実は。
幸橋:
Greedian作品全部ですか!? でも、結構世界観が違う……時代が違うからでしょうか。
春希:
時代だけではなく、
世界線が違いますね。この分岐をしたら、この物語という形で。これから今までやった企画の別の分岐、別の
世界線の作品を出すつもりです。例えば、「トゥルー・エンド」
*5が終わって、こっちに分岐した数年後の話とか。「Deadly Crisis」
*6がこっちに分岐したらこういう未来になっているとか。
Greedian作品はそれらの分岐した物語全てを主軸となるメインのお話が内包しているという世界なんです。貿易商はそのメインのお話に関わって来ます。
幸橋:
そのメインのお話はいつ出て来るんですか?
春希:
「ワールドラインアーキテクト」という作品名で、5年前から告知だけしていて。プロットも出来ているし、出そうと思えば出せるんですけど、どのタイミングでやろうか迷っています。それを出すとGreedian作品が終わってしまうので、Greedianやめます! という時に出したいんですけど。
幸橋:
え!? 終わる?
春希:
答え合わせみたいなものなので、それを知った後でも純粋にGreedian作品を考察して楽しんで頂けるなら良いんですけど、盛大なネタバレをくらった後に見る作品って大丈夫なのかなというのが不安ですね。出すタイミングが悩ましいです。そうやって渋っている間に別の作品のプロットが出て来て、じゃあ、先にこっちを出すかとなってしまいます。
幸橋:
簡単に出して欲しいと言えない作品なので、良きタイミングで。でも、終わるのは嫌だー!
『好きな作品、演者さん、サークルさん』
幸橋:
皆さんにいつも聞いているんですが、好きな作品や演者さん、サークルさんは?
春希:
好きな作品は先ほど挙げた
惑星ノスタルジー、ユウグレデイドリーム、再生ティルナノーグは繰り返し聴いてしまいます。リスナーとして好きですし、脚本・演出も企画者としても素晴らしいと思います。
幸橋:
では、演者さんは?
春希:
企画者としての意見になってしまうのですが、
ユキト*7は、
どんな役でもこなしてくれて、何でも任せられる信頼感があります。
ちるたんさん*8は、
リテイクの対応力がすごいんですよね。軌道修正が完璧、ガラッと変えられます。クラウスをお願いした時もこのセリフからこのセリフの間のイメージがちょっとずれているんですよねと言ったら明確にそのずれを解消してくれて、企画者として今まで関わった方の中ではトップだなと思っています。
やっぱり企画者目線ですね。でも、声も好きですよ。男性ボイスコさんは、癖が無くて無個性だからカメレオンになれる、という役者さんが多いなと思っていて、例えば、藤城ハクさん
*9は何でも出来て、どれを聞いても藤城ハクさんに聞こえなくてわからないんですよ。それはそれで貴重ですごいなと思います。
ちるたんさんはその逆側にいて、何をやってもちるたんみたいな。ツヤツヤした個性のある声で、そこが貴重で好きですね。
幸橋:
そういう声で好きな人はいないんですか?
春希:
単純に感覚で好きな人は、横割れさん*10、情緒不安定さん*11、最近めちゃくちゃ好きなのはぺけ丸さん*12、グッと来ました。
女性で最近注目しているのは、
乃花こよりさん*13。かわいいです。私は女の子役の声がキンキンしているのが好きではないのですが、
すごく可愛らしいけど、そういうキンキンした感じがなくて何でもできそうだなと思っていて、個人的に大注目です。
あとは、
江井みゆきさん*14。ブルー・コールの蘇芳 ハナエや人形喫茶プリズンのエリオットのお母さんでも出演しているんですが、
この方は凄いですよ。基本何でもできます。どんな役でもきれい。
基本的にキンキンしていない落ち着いた声の方が女性は好きですが、そういう声の役が多い人でも
私の作品だと真逆の役をやらせたいなと思いますね。鶏子と南原光香ちゃん
*15とか。
元気キャピ☆みたいな役柄が多い人を清楚にしたり大人のお姉さん役にしたりするのが好きです。
実は真逆の役をやらせたいという意味では音枝優日ちゃんもそうかなと思っていて、きれいなお姉さんや正統派美少女が多いですけど、ぐちゃぐちゃにしてやると思って、鼻水たらして泣いて下さいって依頼しました(笑)その人の別の魅力を引き出したいなと感じる人が好きなのかなと思います。
幸橋:
他にはどなたかいらっしゃいますか。
春希:
さっき名前が出てきた美藤秀吉さんは、付き合いが長くいろいろな芝居を見てきた分やっぱり芝居に対しての信頼感があるのでずっと出て貰っています。声が好きな人はさっき出したんですけど、芝居が好きだという人がまれにいて、それが美藤さんなのかなと思います。
幸橋:
それでは、好きなサークルさんは?
春希:
このサークルさんの作品全部が好きというのはないのですが、
その企画者さんの精神・信念が好きという意味だと、ピポワールド*16のむぎちゃん*17は好きですね。もしかしたら一番作品のことを語り合っているかもしれません。
キャ
ラクターが生きていると考える企画者さんが好きなので、むぎちゃんは
1つの世界があるという感じで作品を作っているのが好きです。キャラクターたちへの愛情も深くて、息子娘みたいな話し方をするのも良いですよね。
あと、付き合いが長いというのもありますが、
さうらさん*18も好きです。
さうらさんもキャラクターを生かしている感じがありますよね。
自分の作品に強い思い入れが感じられる企画者さんは良いなと思います。
『今後の予定、やりたいこと』
幸橋:
M3後にはなってしまいましたが、最近や今後の新作は?
春希:
M3では、Greedianは新作のブルー・コールを出しました。出演している作品では、
「外道丸 GE-DOH-MARU/酒呑童子異伝」*19、
「トーキョーテリトリウム」、
「アンメサイアコンプレックス」*20に出演しました。
M3ではありませんが、
「キーラの錬金術工房」、
「ローゼ・クランー永久の薔薇たちー」*21にも出演予定です。
あとは、現在、プロット段階で、ボチボチ動き出したいのですが、自分が原案ではないサークルを作りたいなと思っていて、自分の身内なり友達なりのこんなのが好きというのを形したいなと思っています。
幸橋:
他に具体的に決まっていないけれど、こういうのがやりたいというのはありますか?
春希:
バイノーラルで少年をやりたいです。需要あるのは女の子で、ショタや男の子で囁きや耳かきって見なくないですか?
幸橋:
確かにあんまり見ないですね。
春希:
私は少年が聴きたい!ので、試しに自分でやってみようかなと思ってます。みんな乗っかろうぜ。バイノーラルマイク持ってるのに、なぜみんなやらない!
幸橋:
そうだそうだ!
春希:
あとはもっと気軽に企画をやりたいですね。フリー公開で短い作品をバンバン出したいです。軽いフリー公開で聴けるBLとかやりたいです。
エイプリルフール企画でやりたいなと思っていた学園ものもやらずに今年も終わりました。毎年M3前だから出来ないんですよね。そして、Greedianが学園コメディをやってもどうせ死ぬんでしょ?って思われるんですよね。でも、普通に日常。
幸橋:
それが逆に驚きですね(笑)
春希:
コラボもしたい!共通世界でいろんな人が脚本書くとか。おにぎりワゴン
*22、iDearoom、ピポワールドとかとやったら面白そうだなと5年ほど前から考えています。
幸橋:
夢が広がりますね(笑)他力本願な私は(←)その企画が実現しているのを待っています!
以上、春希ジュンさんのインタビューでした。ありがとうございました!
『後記』
第2回のあみだくじで決めるゲスト回でしたが、いかがでしたか? 前々から何でこのテーマなのかな、単にグロいのが好きって訳でも無さそうだしという数年越しの疑問を訊く事ができました。また、演者としての春希さんの魅力を再発見したばかりだったので、その理由となる部分も掘り起こせて個人的には満足しています。自分のくじ運に感謝。