ボイスドラマ活動者インタビュー企画「ボイドラと人」

「ボイスドラマ」をテーマに、インタビュー記事をメインコンテンツとして配信しています。今後、ボイスドラマに関わるイベントや新作の告知、作品紹介コラムも増やしていく予定。

【M3前作品紹介】おぼろまどか企画「匣」

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「ぽってりかぼちゃの甘じょっぱい煮物、むしょうに食べたくなる時ない?」

 

私が好きなセリフ、そして、ハッとしたセリフの1つだ。

 

何気ない日常の食卓で、大鉢に入った黄褐色のいい感じにぽっくりとろっとしたかぼちゃ。向かい合う仲睦まじい男女が、それをそれぞれ小皿に取りながら食べるのだろう。買ってきたかぼちゃの分、少し多めに作られた煮物の残りは、ラップをかけてまた明日。そんな光景が目に浮かぶ。でも、きっとこれが「本当にただの日常の会話」なら、そこまで好きなセリフにはならなかっただろうと思う。

 

何の作品に出てきたセリフか。
残念ながら、まだ作品は世に出ていない。
2018年秋M3にて頒布予定のボイスドラマ作品「匣」。ボイスドラマ制作サークル「おぼろまどか」さんの新作だ。

 

突然だけれど、短編の良さとは何だろうか。
30分程度の作品を短編と呼ぶのかはわからないが、ひとまず幸橋定義では短編に属する。
文筆家でも評論家でもない私いち個人の意見では、短編の良さは、ハッとする感覚、それが結末ならば、いわゆる、オチだ。
だが、極論、結末でなくても良い。
何かに「ハッ」と気づく感覚。対象が明確でなくても、その「感覚」が短編の良さだと思っている。好きな短編作品はだいたいその感覚を私に与えてくれる。

 

ハッとするには、情報を過不足なく提示する構成、その一方で、情緒的であることが必要ではないか。これも私個人の考え。

 

「匣」では二組の男女の生活の一部が切り取られている。行き場のない少年少女と同棲を始めて1年の男女。
「平凡」だったり、「異常」だったりする日常生活。
そして、その日常生活の裏に横たわる真実とは……

 

企画者いわく彼らの生活を定点観測しているような物語だ。
一定のリズムでぽつぽつと語られる話の中に、彼らの過去、そして、未来への希望と不安を垣間見るが、その輪郭は、暗闇の中でうごめく影を見るような不明瞭さ。
その影に不気味さを感じる中、明確なのは今ここの彼らの会話だけ。けれど、それすら刹那的な会話を影の存在にドキドキしながら楽しんで欲しい。

 

ところで、おぼろまどかさんの作品の特徴は、「人間の異常性を幻想的に描写すること」だと思っている。それ故、不可解な(時に不快と誤解しそうな)痛みを感じる。過去の作品には優しい雰囲気のものもあるので、そればかりとは言えないけれど。

 

ナイフに刺された痛みはナイフの形状を具体的に知っているだけに、なんとなくのイメージはつくだろう。なら、雨のように細かい無数の針にうたれるといった現実ではありえない怪奇的、超自然的な感覚は? おそらくイメージできず、与えられた時に不可解な痛みと認識するだろう。そんな印象なのだ。
比較的新しい「夜空が眩しくて」や「角付きと厳冬」はその感覚がわかりやすいかもしれない。

 

閑話休題、ハッとするには、物語の前提を正しく理解させるために、情報を過不足なく提示する構成、その一方で、情緒的であることと書いた。

 

「ぽってりかぼちゃの甘じょっぱい煮物、むしょうに食べたくなる時ない?」

 

このセリフ単体というよりも、ここから始まるセリフ群にハッとしたのかもしれない。けれど、情緒を加えてくれたのはこのセリフのように思う。
もう一組の少年少女の日常、そして、それ以外でも、ハッとする部分があるので、聞いてみてほしい。最後には、これまでのセリフに隠れた多くの伏線の意味がわかるだろう。キャスト陣が熱演する登場人物たちの突如決壊する感情も聞きどころ。

 

最後に短編、短い作品というと、「聴き慣れていない人も聴きやすい」というレビューが鉄板だけれど、あえてこの作品には使わないでおこうと思う。 むやみやたらにトラウマを植えつけることもないだろうから(笑)

 

終わり

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【CD情報】

作品名:匣
トラックリスト:
 01箱・内
 02少年少女・冬
 03同棲・表
 04少年少女・夏
 05同棲・裏
 06箱・外
価格:¥1,000
頒布イベント:M3(2018年10月28日(日))

 

<キャスト>
少年:たけはなみれる
天野かなた:加々美由亜
島未波:こずみっく
森尾のぞむ:かがみがわとうこ
倉橋義人:塚多知樹
大学生:小狼

 

<スタッフ>
主催:おぼろまどか
シナリオ:ツキノベ
デザイン・ロゴ:Kabao
編集:斉藤しおん

 

「はこのなかで」
作曲:へろみゅう
作詞:ツキノベ
ボーカル:飛高

 

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幸橋(ゆきばし)
幸橋 (@kusanotsuki) | Twitter
ボイスドラマリスナー。
2009年よりボイスドラマ作品を聴き始め、2013年より開始した感想メモブログ「視聴note」にてボイドラ関連の記事が1,000件を突破(2018年9月時点)

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