こちらは第9回しぐれなおさんのインタビューの後半です。
前半がまだの方はこちらから先にどうぞ!(前半はボイスドラマの話題がメインです)
http://voidratohito.hatenablog.jp/entry/9
『実はほとんどなかったTRPGのリプレイ動画に人間の声を当てることにチャレンジ』
幸橋:
とは言っても、実は私はそのジャンルについては無知も甚だしいので、教えて貰って良いですか(苦笑)
しぐれ:
TRPGは、テーブル
トークロールプレイングゲームの略で
テーブルゲームの1種なのですが、
お話を皆でアドリブで作っていくゲームと言えば良いのか。
キャラクターを自分たちで作って動かし、ロールプレイすることで、一つ作品を作り上げていく。……というと凄くハードルが上がると思うんですが、一側面としてそういうものだと思っていただければ。もちろん大筋は用意されていて、その中でわいわい役割を演じながら遊ぶ
ごっこ遊びの延長戦的なものですね。
幸橋:
演じるなんて、まさに
RPG。で、コンピューターでやるのとは違い、テーブルを囲んで複数名で遊ぶ訳ですね。
しぐれ:
そうです。それで動画に話し戻すと、遊んで出来上がった物語を小説にする文化は昔からあり、リプレイ小説と言われています。
そして、
近年はそれを動画にしたリプレイ動画が流行っていたんです。ゲームみたいに立ち絵があって、テキストが表示されて、
サウンドノベルに近い動画ですね。でも、
声はほとんどゆっくり(棒読みちゃん)がしゃべっていて、人間の声では無いんです。
幸橋:
そうなんですか? 少しは人が声を当てたものがあっても良さそうなものですが。
しぐれ:
人間の声が付いた動画はあるにはあります。ですが、実際に遊んでいる音声を録って、紙芝居的に絵を当てている動画がほとんどです。
幸橋:
実況みたいなものですか?
しぐれ:
それに近いかもしれません。
幸橋:
なるほど。で、ほとんど存在しない、人が声をあてるリプレイ動画をなぜ作ろうと思ったんですか?
しぐれ:
TRPG自体を始めたのは3~4年前に知人に誘われたのが最初でしたね。後からお話する
人狼ゲームもその前からやっていて好きだったので、喜んで誘いに乗りました。その
参考のためにリプレイ動画を見始めたら、すごく面白かったんですよね。特に
「スタヂオひまつぶし卓」*1というサークルが投稿していた「闇をゆく者達の宴」
*2というリプレイ動画が、アニメーションになっていて、立ち絵が動くんです。キャラクターも魅力的で、そうなってくると、
ゆっくりでやっているのがもったいない、この動画に声をあてたいと思ったんです。
幸橋:
それはなぜしなかったんですか?
しぐれ:
ボイスドラマをはじめとする台本のある作品と違い、
それぞれのキャラクターにはそれを動かすプレーヤーが裏にいて、その人じゃないのに勝手に声を当てて良いものかと。特に
TRPGの界隈は自分のキャラクターを我が子の様に思っている方も多いので、安易な行動は避けました。
幸橋:
へえー、そんなものなんですね。プレイしたことがない者にはちょっとわからない感覚かもしれません。
しぐれ:
NPCと呼ばれるシナリオ上用意されているキャラは別として、
プレイヤーがいるキャラクターはプレイヤーだけの持ち物だという感じがあります。あと、単純にニコニコ動画で何かしてみたいという思いが昔からあり、丁度ニコニコには無いし一から作ろうと思いました。
幸橋:
単純に疑問なのは、なぜ、他のこれまでリプレイ動画を作ってきた人は声をあてないんでしょう? 何かが特殊で、ハードルが高いんでしょうか?
しぐれ:
幸橋:
つまり、
TRPGをやっている人は声をあてられる人があまりおらず、声を扱っている界隈の人たちは
TRPGをやらないので、誰もやってなかったということですかね?
しぐれ:
そうなんですかね。でも、「何かの集まり」
*3というIbなどの
フリーゲームに声を当てている声優集団がいらっしゃって、その方々も
TRPGの動画を上げているのですが、先に紹介した遊んでいる様子をそのまま動画にする形式ですね。他にも声をあてる企画の募集を見かけたことはありますが、とん挫していたり。
TRPGをやる人はいるんですが、手間を考えてやらないという選択になったんだと思います。
逆に
TRPG界隈の方でも、
声を当てている動画は1個だけありました。ただ、あんまり再生はされていませんでしたね。コンセプトも自分とは違って、自分はキーパーは
棒読みちゃんでそれ以外肉声という形式でしたが、
その動画はキーパーは人間がしゃべっていて、逆にNPCは棒読みちゃんがしゃべっているという。
幸橋:
そう言えば、なぜ、キーパーの声をあてなかったんですか?
しぐれ:
自分でやりたくなかったんですよ。
朗読が得意じゃないですし、キーパーは説明や描写が多いので、ちょっとテキストを変えたい時も
棒読みちゃんの方が修正しやすいんです。あと、収録の時に自分は
ディレクションをやる必要があったので。
幸橋:
そういうやむにやまれぬ理由があったんですね。
しぐれ:
他にも意図はありました。
やはりメインターゲットはTRPGのリプレイ動画を見ているいる人なので、棒読みちゃんの方がそのジャンルにいる人は慣れ親しんでいます。知らない声ばかりだとそれだけで離れる人もいると思ったので、
棒読みちゃんも一部取り入れました。もちろんぶっつけ本番ではなくて、一度試しにテスト動画も作ってみたりして。出来上がったものが、
普段棒読みちゃんに慣れている自分にとっては、思っていた以上に違和感のないものだったので、これで行こう!と。
幸橋:
私の中では役者
クトゥルフ神話TRPG動画は盛り上がった印象なのですが、これは上げてみたら意外に良かったのか、それとも、何かしら企んでいたと言うと語弊がありますが、仕組んでいたんですか。
しぐれ:
今までニコニコ動画にないもので、需要も一定数あるとは思っていたので、企画段階である程度見てもらえるのではないか? と考えてはいました。後は仕組むというわけではないのですが、こうだから
見てもらえるのではないか? という根拠みたいなものもありました。
幸橋:
具体的にはどういうことを?
しぐれ:
ニコ動はタグで検索する人が多いので、見る人が多そうかつ新着動画があまり投稿されないタグに当てはまれば、新着順で並べると何カ月間は上の方にずっと表示されるとか。そういうこざかしいことを考えてましたね。あと、文章っぽいタイトルをつけることが流行っていたので、それは取り入れました。
幸橋:
ああ、役者が全力で~という部分のことですね。
しぐれ:
そうです。今もそうかもしれませんが、昔は特に
伸びる動画を作るには内容よりもタイトルとサムネ!みたいに言われてましたし、当時伸びていた
TRPG動画もその傾向が強かったので、波に乗ろうと。で、サムネは亜積さんの一枚絵を据えれば見てもらえるだろうと思いました。
幸橋:
色々考えて作られているんですね。すごい。そんな風に試行錯誤して試すのが好きなんですか?
しぐれ:
数字を見るのは楽しいです。こうすると再生回数が伸びるかな? いや、これをしてもあんまり伸びないなとか、
考えて検証してまた考えてっていうのが面白いんですね。あと、役者
クトゥルフをやる前はどうすれば再生回数が伸びる動画を作れるのかなーとか、作りもしないのに考えたりするのが好きでしたね。
数年前から
ニコニコ動画は様々なジャンルに打ち止め感があって、普通に今あるものの真似をするだけじゃ絶対に伸びない。かといって、
誰もやっていないとしても見てもらえるジャンルの中じゃないとこれまた伸びない。だから、
今は隙間産業というのか、見て貰えるジャンルの中で誰もやってない僅かな隙間を狙うしかないんですよ。そういうのないかなーと思っていたら、TRPGを知って、これだーーーー!!!って。
幸橋:
TRPGのリプレイ動画という既にできたコミュニティの中で、でも、ほとんど誰も手を出してない、人間が声を当てる動画を作るというのは、確かに隙間を狙っていますね。いやあ、知っている方がいるからと何も考えずに見てましたよ(苦笑)
キャスティングについても何か拘りがあるんですか?
しぐれ:
やはり内容が面白くなければ話になりませんので、メインの三人はTRPGを通じて知り合った方にお願いしました。特にじゅんきさん
*4は即興演劇(インプロ)のプロとして活動されていた方だったので、絶対に面白くしてくれるだろうと思ってお声かけしましたね。
逆に
NPCと呼ばれる人達、実際のプレイではもちろん僕がロールプレイしていて、後から声がついたキャラクターたちなのですが、彼らには
ボイスコとして活動している中で出会った信頼出来る人達を主にお願いしましたね。神崎智也さん
*5や、夜宙椎華さん
*6や、浅沼諒空さん
*7や、ユキトさんなどがそうですね。
幸橋:
TRPGもボイスコもされている方ならではの人選ですね。
『やぶれかぶれで決行した役者人狼』
幸橋:
しぐれ:
演じながら人狼をプレイするという発想自体は、「人狼TLPT」という舞台シリーズを中心として、舞台界隈では割とやり尽くされた題材だったんです。でも、ニコ生ではまだ誰もやってなくて、
これを生放送で、いちユーザー単位でやれたら、結構革新的なんじゃないかと思ったんです。
幸橋:
それにしても、聞いていると色んなジャンルから集まっていましたね。
しぐれ:
なるべく一つのジャンルに縛られないというか、
色んな人が見に来てくれる様にしたかったんですね。人狼のエンタメとしての強みとして、多く人数を呼べるというのがあるので、やはり活用しなくては勿体ないと思いまして。あまり「役者」というところに囚われずに、ロールプレイが上手いからという理由で実況者のテラゾーさん
*8や歌い手のタラチオさん
*9を呼んだりと、もうごった煮でしたね。
幸橋:
あれはやっぱりアドリブなんですよね。セリフが決まっているならまだしも、アドリブで演技も出来るのかと不安になりませんでしたか?
しぐれ:
めちゃくちゃ不安でしたよ。
幸橋:
やはり(苦笑)
しぐれ:
2016年7月くらいに本格的に始動して、キャラクターを作ったり、
キャラ紹介のパート0の台本を作って収録したのが10月くらいでした。そこまでは早かったのですが、その後シナリオ本を
コミケで出したり、それ以外の諸々に時間を割いてしまい、
キャラ紹介動画を作るのが後に後になって行って。同時進行で
あまり人狼に慣れていなかったプレイヤー向けに練習会を何度か開く予定だったのですが、それも後に後に。当初は2016年内にするつもりが、年が明け、数ヶ月経って、
他にも抱えているタスクがあって段々しんどくなってきて、早く終わらせないとしんどいままだ! と思って、急いで放送日やテストプレイの日取りを決めたりしました。今思うとかなり無茶だとは思うのですが、もうこの時はやぶれかぶれになってましたね。
幸橋:
テストプレイでは不安が残ったまま本番に?
しぐれ:
いえ、そうでもなかったですよ。
最初のテストプレイで処刑されたのが、胡蝶役の夜宙椎華さんだったんですが、その死に様が凄かったんです。今回の企画を軽く考えていた人がプレイヤーの中にいたかはわからないんですが、いたとしたらちょっと目が醒めるレベルでした。放送を見ていただければわかるとは思いますが。
で、自分はどうだったというと、
それで全体の空気感が変わったのを感じましたね。これはやばいものになるなと思って、不安が払拭されました。あと、徳川役のA24さん*10が凄く楽しんでくださっていて、たくさん鼓舞してくださったのも力になりました。
幸橋:
気になっていたのは、役者
人狼はどこまで決まっていて、どこまでがアドリブだったんですか?
しぐれ:
一日目のゲーム開始までは台本ですね。もちろん、
GMの台詞、処刑方法など進行に関わる部分は全て原稿にしてお渡ししてます。
アドリブだったのは議論と、投票中の会話。処刑前の言葉や処刑中の悲鳴などですね。
幸橋:
では、処刑前の言葉やそれぞれの人間関係とかはアドリブなんですね。
しぐれ:
所謂、遺言と言われる部分は、あらかじめ考えていた人はいたかもしれませんが、こちらで決めてはいませんでした。人間関係もその場で出来上がったものです。
幸橋:
胡蝶と千代子の関係とかもあの場で出来たんですね。それは凄い。
しぐれ:
あの2人はその前のテストプレイではいがみ合ってたくらいですよ。
幸橋:
へえ、面白い! そんな役者
人狼ですが、結果、反応はどうでしたか?
しぐれ:
想像以上でした。視聴者にキャラクターを認識していただくために、放送一週間前にキャラクター紹介動画を投稿していたのですが、
実はその動画はあまり再生回数が伸びなかったんです。ちょっと打算的なことを言うと、ニコニコ動画で活躍された方もたくさん起用していたので、その方たちのファンの方が見ると思っていたんですが、そこまででもなくて。
幸橋:
世の中上手くはいかないものですね(苦笑)
しぐれ:
でも、
いざ生放送になるとたくさんの方が見に来てくださいました。ニコニコ生放送は同時に見れる視聴者の数が決まっていて、その枠に収まらなくて追い出される人もいたみたいです。
個人の生放送としては来場者数も多かったですね。その後すぐに公開したアーカイブ動画の再生数も伸びました。
幸橋:
キャラ紹介動画ではそれほどでもなかったのに、実際の生放送や動画が人気を集めたのはなぜなんでしょう?
しぐれ:
生放送では、当日までにキャラ紹介動画を見れない人のために、本編開始前にもキャラ紹介動画を流していて、それ自体も告知していたので、
「当日生放送で皆で見よう!」って思って敢えて見なかった方も多かったのかなと思います。そこから更に
口コミで広がって、
アーカイブの動画が再生されたのかと。その数字の伸びが異様な日がありまして、
何かのトピックスに掲載されたのかな? とも思っています。
幸橋:
Twitterでもイラストとか二次創作がよく流れていましたもんね。あれを見て私も見てみようかなと思いましたから、口コミ大事ですね。
『盛り上がるための追随者を求む』
幸橋:
最後に役者が演じる
クトゥルフや役者が演じる
人狼の魅力って何なんでしょう?
しぐれ:
正直、「役者」にこだわることはないと思っています。実際、
人狼では普段演技をしない方を起用していますし、誰でもやったら楽しいと思います。逆に演技をしているからロールプレイが上手いというわけでもありませんし、
演技を普段していなくても素敵なシーンを作り出せる。そこがTRPGや人狼そのものの魅力だと思います。
ただ、
こういった形で成果物を作るとなると、役者の方が聴きやすいというのはありますよね。経験の少ない方がやると変に気取るというか、演技が成立しなくなることがあるので。
TRPGや
人狼動画の中で、それら両方を兼ね揃えているのは現状ニコニコには「役者
クトゥルフ・
人狼」しかないと思っていて、それが見ることのできる唯一の場所というのが魅力かな……と思います。
幸橋:
中身というよりアウトプットの面で役者が演じることにメリットがありそうですね。
しぐれ:
願いだけを言えば、追随して下さる方を求めています。ジャンルは同じことしている人がいないとやはり盛り上がらないんですよね。
幸橋:
細分化?
しぐれ:
例えば
TRPG一つ取っても、まず
肉声セッションというプレイしている様子そのままの動画と
リプレイ動画に分けられます。
そこから、リプレイ動画は、実際にプレイしたものを基にした
実卓リプレイ動画と、投稿者の
創作のリプレイ動画に分けられりたり。
自分は「肉声リプレイ」と呼称しているのですが、「リプレイ動画に声を当てる」という行為に名称がついてタグという形でジャンル分けされたい。でも、今は自分しかいなくて(苦笑)普段ニコニコのユーザーは、面白い動画を見るとそれだけではなくて、同じタグが付いている同系統の動画を漁ったりすると思うんですよね。でも、
自分の動画は同系統の動画がないので、他から飛んでこないんです。なので、ぜひ作って欲しいですね。
幸橋:
作って欲しいですが、漠然と大変そうだなと思っちゃいますよね(苦笑)
しぐれ:
どうやって作るのか気になるのであれば、教えますので、ぜひ!
幸橋:
こういう他のジャンルと重なった境目のジャンルが盛り上がれば、そこからボイスドラマ作品にも興味を持つ人が増えるかもしれませんしね。興味のある方はしぐれなおさんまでご一報ください!
以上、しぐれなおさんのインタビューでした! ありがとうございました!!
『後記』
前々からボイスドラマとは違うジャンルでも活躍されている方をお呼びしたいなと思っており、今回、しぐれなおさんをお呼びしました。途中で、変更した活動名に聞き覚えがあるのに、しぐれなおさんだと気づかなかった事にショックを受けつつ← 役者が全力で演じる
クトゥルフ神話TRPGと
人狼の話を伺いました。正直、失礼な話ではありますが、やってみたら受けましたくらいのお答えを予想していたものの、そんなことはなかった。ここで自分の浅はかさを平に謝罪申し上げたい! しぐれなおさんの演者の面しか見てきませんでしたが、名プロデューサーの一面を垣間見ました。こういう普段注目しない部分も掘り起こしていきたいものですね。
***
インタビュアー/幸橋