ボイスドラマ活動者インタビュー企画「ボイドラと人」第8回は「アルカナと魔女」や「こもれびの森」シリーズなどを作成するpipoworld.のピポさんです!
絵本のようなほんわかした世界の中に少しの針を仕込む独特の雰囲気の物語をどうして作るようになったのか、また、これまで制作してきた作品も振り返りながらお話を聞きました。
【本日のゲスト】
ピポさん
企画者
2012年よりpipoworld.の活動を開始。「アルカナと魔女」から始まり、絵本のような雰囲気の作品を多数作成。今年は「パティシエミルクとおんがくのくに」にてミュージカル作品に挑戦する。
『活動を始めたきっかけ』
幸橋:
今回は、私の大好きなサークルさんの1つ「pipoworld.」の企画者ピポさんです!
早速ですが、ピポさんはイラストも描かれますし、なぜボイスドラマというジャンルに?
ピポ:
仰る通りで創作はイラストを描いてpixivに上げていることが多かったんです。でも、その作業BGMとしてボイスドラマを聴いていたので、活動を始める前にリスナーでいる期間が長かったですね。それが7年前くらいかな。映像がある作品だと気を取られて作業が進まないので、音声だけの作品はちょうど良かったんです。
幸橋:
なるほど。でも、どうやってこのジャンルを知ったんですか?
ピポ:
pixivで知り合った、この方もイラスト描いている方がボイスドラマに関わっていたんです。こういう作品に関わっていると紹介して頂いて、最初はプロが作ったものなのかと思ったんですが、同人だと知って、このジャンルを知りました。
幸橋:
そのボイスドラマに関わっていたイラストの方というのはどなたなんですか?
ピポ:
壱(にのまえ)さんという方で、SpiraSpirtさん
*1の恋文回想
*2にも出演している方です。その方から教えて頂いて、
SpiralSpiritさんや碧空プラネタリウムさん*3、ハーモスフィアさん*4、Namelessさん*5といった方々の作品を聴いていて、すごい……と思ってジャンル自体に興味を持ったんです。
幸橋:
なんというか、初っ端から良質な作品を作るサークルさんの作品を聴いていたんですね。
ピポ:
初心者リスナーも楽しめるのはやっぱりいわゆる人気で有名どころの作品だと思います。
幸橋:
ジャンルに興味を持ってご自身もボイスコとして2010年から活動される訳ですけども、毎回別ジャンルから来た方には言っているのですが、演技というのは気持ち的にもハードルが高くないですか?
ピポ:
自分がボイスドラマを作るルーツでもあると思っているのですが、小さい時は寝る前に母に絵本を読んで貰うことが多かったんですね。その中には市販の絵本を読むのではなく、母が即興でお話を作って聞かせてくれることもあってそれに慣れていたんです。
幸橋:
あー、私もそうでしたね。絵本や本はよく読んでもらいました。即興ではないですが、手作り紙芝居みたいなものを読んでもらったりとか。でも、私の場合は演技をしたいとは思いませんでしたが(苦笑)
ピポ:
私の場合は、次第に自分も母と一緒にお話を考えて役になってしゃべっていたんです。それが面白いと思っていたので、特に演技をする事にハードルはなかったですね。表現するのが楽しいと小さい頃から思っていました。
幸橋:
なるほど。そこが違いかもしれませんね。
ピポ:
でも、ボイスコを始めた当初は全然受からなくて。ただ、どなたかも仰っていましたが、昔はいっぱい企画があって、落ちても次々に応募できたので、いっぱい募集受けていましたね。それもpipoword.を始める頃にはやめてしまいましたが。
幸橋:
それはなんでなんですか?
ピポ:
やめると明言はしてなかったのですが、もういっかなと思ったんです。もちろん演技することは楽しいと思っていましたが、収録環境がだんだんと整わなくなってきて、そして、何よりも色んな作品に出演するようになって、それぞれの作品に込められた情熱にあてられて、自分も企画してみたくなったんです(笑)元々表に出ていく方ではなく、裏方として脚本とか演出とか編集とかをするような人間だったので、それをボイスコをやっていた2010年から2012年の2年間で思い出したんです。
幸橋:
ボイスコ活動の中で仲の良くなった方もいらっしゃったと思いますが、誰かと一緒にではなく、個人のサークルにされたんですね。
ピポ:
実は私、人と一緒に作ると意見の不一致が起きることが多いんです(笑)
幸橋:
そうなんですか? 意外です。
ピポ:
我が強いんでしょうね。サークルってシナリオ担当編集担当みたいに担当に分かれると思うのですが、自分の担当外のことに関しても私だったらこう作るのにと思ってしまうんです。でも、自分の希望を求めて、その事で他人に不満に思うのは違うと思ったんです。それなら、自分が一緒にやりたいと思っている人に依頼にした方が相手にとっても自分にとっても気持ちよく出来ると思いました。
『平和で安定した理想の世界』
幸橋:
私、数年前から言い続けて来たことがあって、上手い下手とは別次元で、他の人には真似できない世界観を持っている人がボイドラ界隈にはお2人いらっしゃる。1人はハーモスフィアの湊さん、そして、もう1人はpipoworld.のピポさんだと。
ピポ:
実はそれを
Twitterで呟かれていたのを見ていたんです。有難いです。
幸橋:
あれ、そうなんですか? 見られていないと思っていました。
まあ、そいう訳で、その世界がどのように形成されたのかがとても興味があるんです。
ピポ:
そうですね。昔からあまりアニメなどは見ずに絵本を集めるのが好きだったんです。pipoworld.の作品は絵本のようだと言われますが、確かに絵本から着想を得る事が多いです。
あとは
ブラスバンド、オーケストラに所属していたことがあるのですが、歌詞がないので、イメージがないと演奏できないじゃないですか。なので、
曲からストーリーを考えるということはよくしていました。それが物語作りに影響しているかもしれません。
幸橋:
絵本はちなみにどういう作品をよく読んでいたんですか?
ピポ:
ふくざわゆみこさんの「おおきなクマさんとちいさなヤマネくん」シリーズとか
芭蕉みどりさんの「ティモシーとサラ」なんかはお話も好きで読んでいましたね。
幸橋:
「ティモシーとサラ」はかなり忘れてしまいましたが、私も読んだ記憶があります。どれもふんわり暖かい色味の絵本ですね。
でも、
現代っ子でアニメを見ないなんて珍しいですよね。
ピポ:
平和主義者というか安定したものが好きなんです。みんな仲良しで争いがないのが良くて、はらはらするものが苦手です。
物語を面白くするために必要だと理解はしているのですが、アニメやドラマはそういうシーンが必ずあるじゃないですか。でも、絵本は恐ろしく平和で、トラブルがあっても主人公の大切なものなくなるとかお母さんが帰ってこないとかそれくらいで、周りのみんなも助けてくれます。
幸橋:
確かに。
ピポ:
そういう優しい世界が作りたい世界観なんだと思います。現実はストレスが毎日あって、空想の世界くらい平和でいたいなあって(笑)
でも、歩いていてふと思いつく事もよくありますよ。歩いていて雨が降って来て、これ、キャンディーが降ってきたら面白いなあとか。森歩きが好きなので、森歩きながら思いつくことが多いです。
幸橋:
平和で暖かい物語の一方でただ可愛いだけではないというのがpipoworld.さんの持ち味かなと思うのですが、それはどこから出て来るんでしょう。
ピポ:
さっき言っていたような我の強い性格の悪さが出ているのかもしれませんね(笑)
幸橋:
またまた(笑)
ピポ:
というのは、半分冗談で、平和を描きたいものの、その平和や安定は誰かの頑張りによって保たれていると思うんです。
例えば、「こもれびの森の仲間たち」
*6のピピットの兄ビーピットはピピットになぜ両親がいないのか真実を隠しています。
幸橋:
幼い子ども組に対して残酷な真実を大人勢が隠しているという構図ですね。
ピポ:
もしかしたら隠しているというのは少し語弊があるかもしれません。こもれびの森は子どもたち目線で書いているので、隠しているわけではないけれど、子どもは視野が狭いので気づいていない部分があると思います。
自分の子ども時代の幸福は多くの人の努力によって保たれていたなと思うことがあります。平和な世界を描きたいですが、そんな風に頑張っている人たちにもスポットを当てたいんです。だから、こもれびの森は物騒とか言われてしまうんでしょうね。
幸橋:
物騒……(笑)言いたいことはわかりますが。
その平和を支えている人たちも描きたいというのは最初から思っていたんですか?
ピポ:
最初は全然意識していなかったんです。私自身は平和で穏やかで単調な作品だからつまらないと思われないかなと思っていたんですが、蓋を開けてみるとこもれびの森は物騒と言われてしまう始末で(苦笑)ダークとか物騒とか言われる部分も含めて、私にとっては平和だったんですよね。
幸橋:
では、それを意識し始めたのはいつ頃なんですか?
ピポ:
最近です。というか、2~3日前ですね。
幸橋:
めちゃくちゃ最近ですね(笑)
ピポ:
このインタビューにお声がけ頂いて、改めて自分はどうやって作品作ったんだろうと思って書き出して気づきました。
振り返ると処女作の「アルカナと魔女」*7は小難しく作ったと思います。自分なりに計算されたもの言いをキャラにさせたり、面白くなるように伏線を入れたり、心情の動きも矛盾がないようにと作っていたと思います。
でも、伝えたいことはそんな小難しい事ではないと気づきました。人に優しくしたら相手も嬉しい、親切にしてもらってありがとうと言ったら相手も嬉しい。悲しい気持ちの時もちょっと優しくしてもらえることで嬉しくて幸せになれる。皆がそうだったら幸せだと思います。
それが私の理想です。理想なので、一方でそれは現実ではなくフィクションだと思って作っていますが、空想の世界くらいそんな幸せな世界が良いなと思います。
私にとってもインタビューのお話は振り返る良い機会になりました。
幸橋:
それはそれは、有難いことです。
『作品はよこしまな思惑から作られる?』
幸橋:
平和な世界を描きたいというのがどの作品の根底にあるとのことでしたが、それぞれの作品ははどのように物語が生まれたんでしょうか? 例えば、「アルカナと魔女」は処女作にしてpipoworld.さんの世界観を明確にした作品でもありますが。
ピポ:
「アルカナと魔女」は実は思惑がありました(笑)
幸橋:
ここでまさかの不穏なワードが(笑)
ピポ:
pipoworld.のメイン作品は一貫して
to-tiさん*8にイラストをお願いしていて、私は公私ともに熱狂的に大好きなんです。
きれいだけど独特で、この人の絵柄で作品を作りたい! と思ったんです。
幸橋:
確かにto-tiさんさんのイラストはパッと見てto-tiさんのイラストだとすぐわかりますよね。to-tiさんのイラストイコールpipoworld.さんの作品と思ってしまうくらいには、私の中では切っても切り離せないです。
ピポ:
そのto-tiさんはボイスドラマにはあまり触れてなかったので、なかなか誘えなかったのですが、どうしても巻き込みたくて一計を案じました。
幸橋:
ほう!
ピポ:
to-tiさんは実は目玉が好きなので、単眼というジャンルで一つ目のイラストを描いていて、ハンドメイドできれいな眼球も作るんですよ。
幸橋:
まさか、それは……(笑)
ピポ:
もうおわかりですよね?(笑)
to-tiさんの好きなものを入れた作品を作ったら描いてもらえるのではないかと思って、守魔女ゼシルシアは目玉収集癖があるという設定にしたんです。そして、1話の台本だけわっと書いて、挿絵だけでもと依頼したら、思惑が大ヒット!
幸橋:
まさかゼ
シルシアの特徴の1つである目玉収集の設定がそういう理由で生まれたとは!(笑)予想外過ぎます。
ピポ:
そんなよこしまな思いがあって、to-tiさんだけに向けられたものですが、他者を意識した作品作りを意識し始めたのは「アルカナと魔女」が最初ですね。
幸橋:
ある特定の個人に向けて作ったというのは「アルカナと魔女」に関しては成功だったと思います。聴き手というぼんやりした集団ではなく、具体的な個人をターゲットにしていたからこそ、ああいう尖った? というのか、特徴が際立った作品になったのではないでしょうか。
ピポ:
オリジナリティを出そうと思っていた訳では無いのですが、アルカナと魔女は印象に残る作品だねと言われます。
私の作品はある特定の人に向けた話が多くて、実は今年出した
「パティシエミルクとおんがくのくに」*9もそうなんです。
幸橋:
誰に向けた作品だったんですか?
ピポ:
みなづきさん*10というこもれびの森のEDも担当して下さった作曲の方がいて、3年前に
ミュージカルに興味があるか訊いたことがあるんです。
幸橋:
ミュージカルお好きだったんですか?
ピポ:
逆です。その時、ミュージカルだけは作らないと仰っていて、1つの曲に1つの世界観という形で曲を作ってきたので、劇中歌がイメージ出来ないし、上手くいく自信もないと言われてしまって。
幸橋:
それなのになぜミュージカル作品を一緒に作る事に?
ピポ:
そう言われて、じゃあ、作ってもらおうと思っちゃったんです。嫌がる様が見たくて(笑)
幸橋:
え(笑)反応はどうだったんですか?
ピポ:
怒られました(笑)作らないって言ったよね! と言われたんですが、覚えてないと白を切って。
幸橋:
そろそろ反応のパターンが無くなってきましたが、いろいろ凄いですね。
ピポ:
でも、その分、パティシエミルクとおんがくのくには、みなづきさんの好きな世界観を入れたつもりではあります。やはり、一緒に作る人に喜んでもらいたいので。
幸橋:
気になっていたんですが、ボイスドラマのミュージカル曲ってどう作るんですか?
ピポ:
恐らく他のサークルさんと作り方が違うと思うのですが、
私がアカペラで歌ったメロディラインをみなづきさんに聴いてもらって耳コピしたものを曲に書き起こしてもらいました。
幸橋:
ピポさん作曲も出来るんですか?
ピポ:
職業柄、即興で歌って盛り上げることがよくあるので、簡単なメロディはパッと出て来るものがいくつかあるんです。でも、その歌ったメロディがみなづきさんの手によって100万倍かっこよくなって戻って来るんですよ。もう楽しくなっちゃって、5曲の予定が十何曲になってしまいました。
幸橋:
パティシエミルクとおんがくのくには確かスタジオ収録ですよね? pipoworld.さんの作品はスタジオ収録なんですか? それともパティシエミルクがミュージカルだからでしょうか。
ピポ:
最初は宅録だったんですが、「ツイのスミカ ナイナイの城」*11で初めてスタジオ収録をして、スタジオ収録の楽しさを知りました。
目の前で演じてもらえるとテンションが上がりますよね! でも、私が北海道在住なので、スタジオ収録は他にはこもれびの森の湖の話やパティシエミルクくらいです。
幸橋:
機会があればスタジオ収録の方が良いというところでしょうか。
ピポ:
うーん、どっちもやってどっちにも良さがあるとは思います。スタジオ収録だと演技の息が合いますし、ボイスドラマはいろんな人に協力して頂いて力を合わせて作りあげるのが、イラストや小説というジャンルと異なる部分だと思うのですが、その特性をわかりやすく感じるのがスタジオ収録ですね。
一方で、自分がボイスコをやっていたので、
宅録だと何回でも満足いくまで録る事が出来るのも知っています。なので、スタジオ収録と
宅録どちらも時と場合に合わせてうまく使えれば良いなと思います。
幸橋:
では、パティシエミルクは歌もあったからスタジオ収録だったんでしょうか。
ピポ:
それが、実は私がみなづきさんに曲を投げるのが遅くてスタジオ収録には間に合わなくて、後日収録になりました(苦笑)キャストさんが快く受け入れて下さったので、本当に有難いです。
幸橋:
なんと(笑)
ピポ:
そんなふわふわサークルでも作品作れるよ! ということで。
パティシエミルクは私やいつも編集してくれる渡瀬さんが時間が無くて、みなづきさんに編集もしてもらったのですが、ボイスドラマはそういう風に素直に甘えるゆとりがないと作るのが難しいんじゃないかなと思います。
後半に続きます!