こちらは第10回汐瀬悠里さんのインタビューの後半です。
前半がまだの方はこちらから先にどうぞ!
http://voidratohito.hatenablog.jp/entry/10
『8年かけて完成した長編作品「Mid-nighter_nocturnus」』
幸橋:
知らない方がいれば、教えたいなあと思っていたのが、Mid-nighter_nocturnusでした。企画停止の危機がありながら、くじけず何年もかけてちゃんと完成させた企画もあるんだよ! と。遅くなりましたが、完成おめでとうございます。
汐瀬:
ありがとうございます。
幸橋:
これは元々は「Mid-nighter」
*1という短編が先にありましたよね。Mid-nighterを作った時には既に長編の続編を作ろうと思っていたんですか?
汐瀬:
いえ、全く(笑)
幸橋:
あれ、そうなんですか? 聴くと、敵キャラの
インキュバスとの因縁とか妹の呪いとか、これは続くだろ! と思うような話ですが。
汐瀬:
2007年の夏に元ネタを出したのですが、 元々、10月が誕生日の友人の誕生日プレゼントとしてこれで完結する作品として作ったんです。でも、脚本を書いて編集をしている内に続きを作りたいと思い始めて、2008年くらいに続編のMid-nighter_nocturnusを作り始めました。
幸橋:
2008年から作り始めて、去年2016年に完成なので、約8年かかった訳ですよね。言いづらいかもしれませんが、後進の方々の参考のために、何が理由で制作が滞ったのか話せる範囲で教えて貰えますか?
汐瀬:
作品の構成としてはCase1、2、3という形で区切っていて、Caseの中でも5~6くらいトラックが分かれています。Case3くらいまでは確か順調だったと思います。でも、始めた時には脚本がまだ途中でCase5くらいまでしか書けていませんでした。そこから書いている内に長くなっていき、最終的にはCase7まである長編になりました。それもあってか2~3カ月に1回程度の更新で、Case1つ分を全部公開するのに半年くらいかかっていましたね。
幸橋:
それだけを聞くとコンスタントに2~3カ月に1度更新というのは別に遅い気はしませんね。
汐瀬:
2010年くらいから更新が遅くなりました。先ほど社会人になってという話がありましたが、ちょうどCase3を出した頃に就活やら卒論やらで忙しくなり、その後は社会人になってなかなか時間がとれず、1年にCase1つ分を公開するという頻度までペースは落ちました。
幸橋:
ちょうど大きな生活環境の変化の時期にぶち当たったんですね。
これはもしかしたら触れてはいけないのかもしれませんが、……主人公のスイヤは途中でキャストさんが変わっていますよね?
汐瀬:
はい。実は初期の頃からお仕事がお忙しいキャストの方がいて、メインキャラのボイスが集まらないのも理由の1つでした(苦笑)
幸橋:
趣味ですからね。仕事で時間がないと言われると強く言えないですよね。
汐瀬:
他のキャストさんの中には時間を見つけてきちんとボイスを提出してくださる人もいるのですが、それぞれ状況は違いますから。でも、やはり編集が出来ない、だから、更新が出来ないという状態が続いたので、周りには相談していました。周りからはおろすべきだ! と言われたのですが、自分から依頼したので、自分の勝手でおろすのはどうかと悩みましたね。
幸橋:
周りの人の意見も汐瀬さんの意見もわかる(苦笑)難しい。
汐瀬:
唯一救いは、その方とは
SNSで繋がっていて、なんなら携帯にも連絡が出来たので、
生存確認は出来たことですね。なので、都度、確認が出来たので、おろさなかったのですが、
スイヤのキャストさんに関しては、連絡が完全にとれなくなってしまったので、やむなく降板の処置をとりました。
幸橋:
なるほど。そして、後任はシャムさん
*2でしたよね。
汐瀬:
実はその前に別の後任者がいたんですが、その人とも連絡がつかないことが多くて、締切を設定し直しても守って貰えず、催促にも反応がなかったので、その人もおろすことになりました。でも、その後、後任探しが難航しまして(苦笑)スイヤの声質を探すのは難しいんです。彼は低音の青年声なのですが、色んな方のサンプルボイスを聞きましたが、青年の低音は中年に聞こえることが多くて、どれもピンと来ないまま、1年経ち、2年経ちました。
幸橋:
ここまで来たら、主人公の声で妥協したくないですよね。でも、そんなに探して、どうやってシャムさんに辿り着いたんですか?
汐瀬:
シャムさんが、さっきも名前が出てきたFestivalのキャスト募集に応募してくださったんです。そこでは残念ながら役名のあるキャラには採用にならなかったのですが、エキストラを頼みたいなと思って、サンプルボイスを聴きに行ったら、いたー!!!! と。
幸橋:
ついに見つけた! ですね(笑)
汐瀬:
はい。でも、当時どういう人かわからなかったので、まずはFestivalのエキストラで様子を見ていたのですが、期限は守ってくださいますし、やりとりする中でも好印象だったので、Festivalの後に依頼しました。
幸橋:
完成までの度重なる壁にやめようと思いませんでしたか?
汐瀬:
スイヤのボイスが届かない時にまた周りに相談しました。その頃、前任者にはCace6までボイスを貰っていたので、そこまでは公開していました。あとは言ってしまえば、Case7とEpilogueだけだったんです。だから、最終話はごめんなさいと謝って原稿を公開してオチだけ見せて終わりにしてはどうかという案も出たんです。
幸橋:
なぜ、そうしなかったんですか?
汐瀬:
ただただ頂いたボイスを無駄にしたくなかったんです。早い方は依頼した数日後には出して下さっていて、無駄には出来ない、なかったことにしたくないと思ったんです。
幸橋:
更新停滞時期はキャストスタッフの方からの反応はどうでしたか? 連絡はしていたんでしたっけ。
汐瀬:
私は毎年、新年にその年お世話になったキャストさんに挨拶メールを送っているのですが、Mid-nighter_nocturnusの関係者にもメールを送って、いついつまでにこうしていきますという連絡をして、更新した時にもお知らせを送っていました。その際に、キャストさんやスタッフさんから怒られることはありませんでした。
幸橋:
いやあ、まめですね。ちゃんと状況がわかれば、公開されてなくても気持ちとしては安心できますよね。
汐瀬:
連絡がないと見捨てられたと思ってしまいますよね。
人に恵まれているなとも思います。Mid-nighter_nocturnusが更新出来ない間も別の企画をやっていたんですが、怒られることはなかったです。優しい人に囲まれていますね。企画完成の連絡をした時もキャストさんからお疲れ様! とか、待ってました! という喜びの返信を頂きました。
幸橋:
汐瀬さんは完結した時どうでしたか。
汐瀬:
泣きました。年末で裏話のページを作りながら1人泣いていて、達成感やら安心感やらで胸が一杯でした。
ずっと終わらないかもしれないという不安な気持ちがあったので、京都に住んでいた時に、神社で賽銭投げる度に完結しますようにと祈願していたくらいです。
幸橋:
いやあ、すごいと思いますよ。私だったら、不安でしんどくて、もういやだーになると思います。
汐瀬:
しんどい思いをしても続けたのは、やはりボイスを無駄にしたくないという気持ちがあったからですね。それにモチベーションが下がるということはなかったので、いやだーと放り出したくなるというよりも、今後どう進めていこうかと悩んでいました。
幸橋:
そういう汐瀬さんだから、信じて貰えていたんでしょうね。
汐瀬:
頓挫する理由は様々ですが、そういう時も諦めないで欲しいですね。
幸橋:
Mid-nighter_nocturnusみたいな実際に年月をかけても完成させた例があるというのは、他の企画者さんを勇気づけると思いますよ。
『インタビュアーが聞きたいだけではと噂の好きなサークル、演者、作品紹介』
幸橋:
企画者さんの中でも汐瀬さんは他のサークルさんの作品を聴いている印象なのですが、ぶっちゃけ好きなサークルはどこですか?
汐瀬:
これまでのゲストさんが出して来たハーモスフィアさん
*3とかおにぎりワゴンさん
*4も好きなのですが、こんな作品もあるんだよという紹介も込めて、
壊転ラヂヲさん
*5と
箱庭Sさん
*6ですね。
幸橋:
おもしろいところを突いて来ましたね。そういうの好きですよ(笑)私も壊転ラヂヲさんと箱庭Sさん好きですが、汐瀬さんが好きな理由は何ですか?
汐瀬:
壊転ラヂヲさんは
聴きやすさナンバーワンだと思っていて、初めてボイスドラマを聴くという方にもおすすめです。
「イロドロボウ」*7がすごく好きで、
イロドロボウに色を盗まれたヒロインの女の子の最後の台詞がかっこいいんです。壊転ラヂヲさんは
現代劇を描くのが上手いんですよね。現代が舞台なのに、その中に異質が紛れ込んでいるのが、面白いと思います。
幸橋:
イロドロボウも確かに現代劇なのに異質なイロドロボウという存在が現れますよね。
それでは、箱庭Sさんを選んだ理由は何ですか?
汐瀬:
箱庭Sさんは、中編や長編といった長めの作品が多いんですが、飽きないんですよね。長い話を聴くと中だるみをしてしまうのですが、テンションの高さがずっと続くのがすごい。
幸橋:
わかります! あの体力、という表現が適切かわかりませんが、持続力はすごい!
汐瀬:
その結構なボリュームをM3の度に作っているのが純粋にすごいですよね。
あと、
「浅瀬クエスト」*8や
「深海ぼーけん!」*9みたいに擬人化ではなく、本当に海の生物が出てくる作品を作るという突拍子もないことをしたり。
浅瀬クエストはキャストで参加しましたが、楽しかったので、続きを作って欲しいです(笑)
幸橋:
では、演者さんでは?
汐瀬:
女性なら
hie.さん
*10、男性は
シャムさんですね。
幸橋:
シャムさん(笑)やっと見つけた青年低音ボイスですね。
汐瀬:
それだけではなくて、男性の高い声から低い声までオールマイティに出せるのが凄いです。エキストラで重宝します。
さっきも言ったように中~低の青年声は渋い声になることが多いのですが、渋さがなくて、ただ低い青年声なんですよね。おじさん役が多いですが、青年役を大プッシュしています。
幸橋:
では、hie.さんが好きな理由は何でしょう?
汐瀬:
演技のバリエーションがすごいんです。FestivalとChess Gameで出て貰ったんですが、どちらのキャラも一癖も二癖もある変な子なのに、それをなんなくこなしてしまうんです。期待以上の演技をしてくださいます。演技をどう編集で生かそうか考えていました。
幸橋:
Chess Gameのあの巻き舌入ったような狂った叫び声が個人的に好きです(笑)
汐瀬:
編集していて楽しかったです(笑)亜樹さんにも
エロヤバいと言ってました。
奈緒弥さん
*11の Ciere
*12という作品で出て来る妖精のサバサバした声も好きなので
単純な役も今後お願いしてみたいです。
幸橋:
では、最後に好きな作品を教えてください。
汐瀬:
R@Gseedさんという少し暗めな作品が多くて、その中で
「Alice rain」*13が好きでしたね。
『今後の予定』
幸橋:
10周年の年がほぼ終わろうとしていますが、来年の抱負は?
汐瀬:
2017年は頑張ったので、2018年はのんびりやる予定です。春のM3では完全な新作は出さない予定なので、新作は秋のM3でしょうか。
幸橋:
途中出てきた中編はどうなんですか?(笑)
汐瀬:
長い話も書いてみたいなとは思います。中編のWeb公開作品はタイミングを見てですが、来年か再来年かまだ決めていません。
ドラマCDで長編も作りたいですが、長い作品は編集が大変そうなのでいつになるか。あとは、他の企画も勉強になるので、知り合いや応募だけにはなると思いますが、参加したいですね。
幸橋:
のんびりと言いながら、なんだかんだ、汐瀬さんは来年も何らかの形でボイスドラマ制作に関わっていそうですね(笑)
インタビューは以上です。
ありがとうございました!
【後記】
汐瀬さんは恐らくボイドラ関係者の中でも早い段階でお会いして顔見知りになった方のように思います。
今回は最初に書いたように、主宰の「E*Project」が10周年という節目を迎えたこと、「Mid-nighter_nocturnus」についてもお話を聞くために、ゲストとしてお呼びしました。途中上手くいかないことがあっても、長い時間をかけてでも完成させた作品が世の中にはあるんだよ! というのを皆さんに知って欲しくて。お話を聞くとやはり相当しんどいようなので、計画通りに作れるのが一番ですけどね(苦笑)終始、明るい汐瀬さんに楽しくお話聞かせて貰いました。
***
インタビュアー/幸橋
幸橋 (@kusanotsuki) | Twitter
ボイスドラマリスナー。
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