ボイスドラマ活動者インタビュー企画「ボイドラと人」

「ボイスドラマ」をテーマに、インタビュー記事をメインコンテンツとして配信しています。今後、ボイスドラマに関わるイベントや新作の告知、作品紹介コラムも増やしていく予定。

【コラム】「他の作品と比較できなければ、その作品が良い作品かわからないのか?」

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「私は他のボイスドラマ作品を全然知らない。だから、この作品が良いのかわからない」

だから、探しに行かないと――

そう思って、9年の時が経った。


皆さん、こんにちは。「ボイドラと人」の運営者、編集長、ただのボイスドラマリスナー、ボイドラ廃人、肩書に絶賛悩み中の幸橋です。
ここでは、ボイスドラマ作品に関連したコラムを連載して行きたいと思います。
連載名は現在、考え中です(笑)

 

第1回にピックアップするのは、RBプロジェクト制作「レプリカブルー」

http://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ083854.html

<あらすじ>
“「僕たちは知らなかった、今日、世界が終わるなんて」
東京に引っ越して来た高校生の妹尾麻衣。新しい学校に不安と期待を抱き9月1日の朝を迎えた彼女は、テレビのニュースで先日まで住んでいた自身の生まれ故郷「青星村」で原因不明の爆発事故が起きたことを知る。青星村へ向かう途中で偶然再会した親友の田辺美和と立ち入り禁止の現場に足を踏み入れた麻衣は、爆発で全てが吹き飛んだ村の跡地を見つける。そこで出会った謎の女性。彼女から聞かされる麻衣の思い人である桐原秋からの伝言。その意味とは――8月31日、村にいた人々の最後の夜を描きながら、村に隠された秘密が暴かれて行く。”

先日のインタビューゲスト渡辺流久里さんの記事でも紹介したので、作品名を覚えている人もいらっしゃるかもしれません。
私がまだボイスドラマ(ドラマCDと言い換えても構いません)を本、マンガ、アニメ、ゲームなど他ジャンルの添え物でしかない、他ジャンルに寄生してしか生きられない脆弱なジャンルとして認識していた頃に出会った作品です。その認識を大きく覆した作品でもあります。
だから、この作品について、言いたいことはたくさんあります。でも、それはいつかの機会に。
今日、問いかけたい、そして、お伝えしたいのは1つです。

「他の作品と比較できなければ、その作品が良い作品かわからないのか?」

冒頭に書いた昔の私が思っていたことに共感された方は皆無ではないはずです。
先に結論を述べれば、それから私が9年かけてたどり着いた答えは、NOです。
それは、もちろん次のような意味が含まれています。

一般的に評価が高い作品と個人の中で評価が高い作品は異なる。自分が良いと思えば、それは自分にとって良い作品なのだ。

ただ、私はそこにとどまらず「比較しなくても良い作品はわかる」と言いたいのです。
少なくとも、比較する事で良い作品がわかるなら、あなたはもう既に良い作品がわかる。
私が言いたいのはそういうことです。

レプリカブルーに出会ったボイスドラマリスナー歴2か月程度、聞いた作品は10を超えていたかもわからないそんな新米リスナーだった9年前の私と、1,000以上の作品を聴いてヘビーリスナーと呼ばれる現在の私。今の自分が作品を正しく評価出来ているかは今回は脇に置いておきます。少なくとも今の私は比較できる多くの作品を知っています。
そんな今の私と昔の私とで大きくレプリカブルーの評価は変わっているのか。

正直、変わりません。

思い出深くて特別になっている可能性はあります。私も人間です。情は捨てられません。
でも、それだけではありません。
レプリカブルーを聴く度に未だ他人によって苦しみ、他人によって救われる、人間の愚かさと愛おしさが胸に迫ります。将来有望なピアニストの兄の手が動かなくなった責任を感じて花瓶の破片を自分の手に突き刺す直の苦しみ、颯太が憎んでいる父親、ずっと植物状態だった母親、3人で過ごした最後の僅かな時間、秋の孤独と彼の孤独を救った教室での会話。音の世界がこんなに鮮やかで豊かな物語を紡げるものなんてと思ったこと、今も覚えています。

そして、誰も知らないこんな小さな村でさえ、そこに生きた人々、そこで生まれた少年少女たちにとっては、「世界」そのものだった。だから、村が消えること、周りで生きていた人々にもう会えないこと、それはすなわち世界の終わりなのだと、骨の髄まで染み込んだ喪失感。きっと言葉通り地球を爆発させるよりもずっと大きな衝撃だった。それは今も昔も変わりません。

これはとんでもなく「良い作品」だ。

レプリカブルーに出会いそう思った当時の私は(今の私もですが)疑り深い人間でした。
私は世の中にもっとすごい作品があるのを知らないだけなんじゃないか。小さなプライドだけは人一倍高かった私は、井の中の蛙になりたくありませんでした。こんな程度の作品に感動するのかと笑われたくありませんでした。

9年の時が経って、多くの作品を知って、今の私はまだ思っています。

これはとんでもなく「良い作品」だ。

勘違いして欲しくないのは、私が言いたいのは、レプリカブルーがいかに素晴らしい作品かではありません(言いたくて仕方ありませんが)

あなたが「これはとんでもなく良い作品だ」と思えば、それは良い作品なのです。
リスナー歴たった2か月の私でもわかるのですから。


9年前から変わらず私が「とんでもなく良い作品だ」と思ったレプリカブルーが生まれて今年で10年。
2か月で終わっていたかもしれないリスナーが9年経って、10回目の8月31日を迎えます。

***
幸橋(ゆきばし)
幸橋 (@kusanotsuki) | Twitter
ボイスドラマリスナー。
2009年よりボイスドラマ作品を聴き始め、2013年より開始した感想メモブログ「視聴note」にてボイドラ関連の記事が900件を突破(2018年1月時点)

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