ボイスドラマ活動者インタビュー企画「ボイドラと人」第21回は、舞台やゲーム、音声作品と広く脚本家として活躍されている渡辺流久里さんです!
私のボイスドラマリスナーとしての人生のきっかけを与えてくれた大恩人。RBプロジェクト
*1、主宰団体創造旅団
カルミア*2、そして、現在、所属している劇団ゲキジョウ!
*3の新作スターダスト・
インフェルノ*4に受け継がれる渡辺流久里さんの描きたいものをお聞きしました。冷静に話せないのは覚悟の上、そういう昔を懐かしむ対談っぽいものも時に良いのでは? そう思って下さる方はこのままお進みください。
幸橋:
渡辺流久里さん(以下、渡辺):
よろしくお願いします! いやあ、緊張するねえ(笑)
幸橋:
私の方がどきどきですよ(笑)どんな話になるのやら。
<目次>
『手書きで執筆した高校生時代と5ページから始まった劇団立ち上げ公演』
幸橋:
最初は脚本家さんではなく、役者さんだったと思うのですが、脚本を書き始めたのはいつからなんですか?
渡辺:
本当に初めは高校1年の時かな。高校で演劇部に入って、最初は3人しかいない小さな部で、その上、私以外は3年生だけだったから、大会に出たいがために1年生から12人部員を集めたね。
幸橋:
初っ端から規格外な話が(笑)最初はどんな話を書いたんですか?
渡辺:
SFだった。アンドロイドと人間が争う話だった気がする。
幸橋:
最初の舞台がSFですか。舞台だったら、現代もので、共感しやすい自分たちと同年代のキャラにするんじゃないかと思うのは私だけでしょうか。
渡辺:
気が狂っていたんだと思う(笑)
幸橋:
いやいや(苦笑)では、高校で演劇部を経験して、高校卒業後、劇団に入ったんですか?
渡辺:
ううん、
劇団に入る前に1回就職した。これを言うと社会不適合者という感じがするけれど、
就職してまだ1年経たない頃だったね、朝、制服に着替えている時に、急に辞めたくなって。そのまま社長のところに行って辞めます! と。社長が良い人だったから、辞表の書き方を教えてくれて、その場で辞表出して辞めて来たんだよね。その足で
セブンイレブンでフロムエーを見て、本屋と劇団で迷って、劇団に出したら受かったという。そこで本屋を選んだら今ここにはいない。
幸橋:
思い切り方がすごい。
渡辺:
バカだよね(笑)18歳とか19歳の時だから、若さ故とも言えなくはないけど。社会人経験がほとんどなかったから、その時に入った劇団で先輩がいろいろ教えてくれた。
幸橋:
そこからご自身の劇団「なないろ風船」
*5を立ち上げますよね?
渡辺:
劇団を立ち上げたのは、確か23歳のときだ。それも若さと勢いだったね。
幸橋:
なぜ自分で劇団をと思ったんですか? 何か作りたい作品があったとか?
渡辺:
今思うと恥ずかしい限りなんだけど、面白いものを自分でも作れると思ってしまって(笑)
その時は自分は役者だと思っていたから、実は脚本を書きたくなかったんだけど、既成脚本を上演するつもりはなく、かといって、脚本を書いたことがあるのは自分だけだったから、「仕方ないから書くけど、いつか誰か書けるようになってね」って言ってました。
で、本当に今では信じられないけど、舞台脚本はだいたい完成稿が60~80ページくらいあるのが普通で、それなのに稽古初日に出来ていたのは最初の5ページだけ。
幸橋:
え……?(笑)
渡辺:
そこから稽古の度に1ページずつ出して怒られたね。あの時出て下さった皆さん本当にありがとうという感じです。本当にめちゃくちゃだった。勢いだけで失うものがなかったから出来たんだろうけど。
幸橋:
それはどういうお話だったんですか?
渡辺:
うーん、2時間もので、前編後編の二部構成だったね。前編は普通に若い女の人の1日を描いて、後編で彼女の1日の中に出会った女性たちの中に恋人の幽霊が乗り移っている人がいたという種明かしがされる話だった。その頃から私の作品はなんかうすら暗いねといつも言われる。
幸橋:
ここでも普通のことはしないんですね(笑)
渡辺:
よくやったよね。あんなバタバタな公演こわすぎる。なないろ風船では何言っているんだお前という
黒歴史がいっぱいある(苦笑)
『最初の音声作品「レプリカブルー」』
幸橋:
そんな舞台の脚本を書いてきた流久里さんですが、一番最初の音声作品の脚本はやはり「レプリカブルー」
*6ですか。
渡辺:
うん、最初はRBプロジェクトだった。劇団を立ち上げてすぐだったかな、
代表の泉*7とファミリーコンサートで出会って、その時に彼女から、「養成所にいて、自分たちで何かやりたい。脚本書けると聞いたけど、書いてみない?」と言われて、良いよーと軽いノリでOKした(笑)
幸橋:
何か参考にしたものはあるんですか?
渡辺:
ないね。一応、それまでに漫画原作のドラマCDや
文化放送で
ライトノベルのドラマをやってたのとかは聴いたことがあったけど、
ボイスドラマって? ラジオドラマって? と、よくわからなかったかな。小説を音声化するような感じかなと考えていた。よう書いたわと思う。
幸橋:
それは凄いですね。確かにレプリカブルーは、比較的モ
ノローグは多かったですが、それでも、小説の脚色作品と違って、今のボイスドラマやオーディオドラマと言われる作品の形式にはなっていますし。
渡辺:
気が狂っていたんだと思う(2回目)今ならラジオドラマのテクニックはわかるけど、その時は何もわからなかったので、プロットも立ててなかったね。あの頃は何も計算せずにこのシーン、この話が書きたいなってだけで書いてた。
幸橋:
レプリカブルーは何が書きたかったんですか?
渡辺:
登場人物が本当はもう死んでいるという話が書きたかった。物語は、9月1日から始まるんだけど、8月31日にみんな死んでしまって、9月1日はみんな死んでしまったあとの世界。登場人物たちの8月31日の様子を描いているけれど、この人たちもうすぐ死んでしまうんだぜ、というのを書きたかった。
幸橋:
レプリカブルーが登場人物に高校生が多くて顕著ですけど、流久里さんの作品はまだ未成熟な少年少女が多いですよね。年齢重ねるほどにキャラの年齢も上がりそうなものですが。
渡辺:
青春のやりなおしをしているのかもしれない。もしくは、自分がまだ子どもなのかも。商業の話で言ってしまえば、あの年代を主人公にすると売れるんだけど、個人的にあの年齢の未熟な部分も好きなのかもなと思う。変態ではないと信じたいけど。
幸橋:
そんなこと言ってないじゃないですか(笑)
渡辺:
でも、年齢は微妙に上がっている。二十代の登場人物が増えて来たなと思うよ。私も大人になってきたかな。
幸橋:
確かにスターダスト・
インフェルノでも君は二十代だったんだねという人多いですよね。
渡辺:
全体的に今の二十代は精神年齢が若いから、若い人を書きたいのは変わらないのかもしれない。でも、大人しか出ないドラマもいつか書きたいなあ。
幸橋:
カルミアの「1899年のレクイエム」
*8は年齢高めでしたよね。メインがだいたい二十代より上でしたし。
渡辺:
確かに
カルミアは新鮮だった。
新しい事をやろうとして、大人のドラマを書こうという意図はあったね。背伸びしていたんだと思う。
『プロの脚本家になって』
幸橋:
話が少し戻りますが、ご自身を役者だと思っていた流久里さんが脚本家になろうと思ったのは、いつ頃からですか?
渡辺:
自然にそうなっちゃんだよね。なろうと思うよりも先に脚本の仕事をもらうようになって、でも、
レプリカブルーを書いて、ちゃんと学校へ行って脚本の勉強をしようとは思った。レプリカブルーをやっていた時は並行してまだファミリーコンサートも続けていたんだけど、脚本の勉強するので、辞めますと。26歳の時だね。
幸橋:
今はどういうお仕事が多いんですか。
渡辺:
ゲームの脚本が多いかな。
幸橋:
ゲームの脚本は音声作品や舞台とは違いますか。
渡辺:
全然違うね。自分の個性よりもキャラを書かないといけないし、ト書きはないし。そして、とにかく量を書かなくてはいけない。ゲームと言うよりも商業だからかもしれないけど。
幸橋:
ちなみにゲームは別名義なんですか。
渡辺:
渡辺流久里名義ではないので、検索しても出て来ません(笑)
渡辺流久里名義は今は舞台しかやってないかな。あとは、最近では、「忘却学園プルガトリウム」*9
幸橋:
あ、
ゆーりんプロさんと前田さん
*10と流久里さんという懐かしい組み合わせの作品ですね(笑)
渡辺:
それ以外は、最近、音声系はあまりやってないので、仕事待ってます!
幸橋:
プロの脚本家さんへの依頼はハードル高いのかもしれませんね。
渡辺:
お高いんでしょう? とは言われるし、実際高いからね。本当はいくらですが、お話は聞きますよと言ってます。場合によっては締め切りをのばしたり、買い取りではなく権利関係を多く貰って値引きすることもある。
幸橋:
なるほど。
『引き継がれるテーマ①「人間と愛」』
幸橋:
流久里さんの作品にいくつか共通するテーマがあると思っていて、その中の1つが「愛」なんですよね。スターダスト・
インフェルノでも愛は殺すことができるかという問いかけがありますし。
渡辺:
人間を書くと結局愛を書くになる。多くの作家さんがそう言うと思う。昔は例えば家族愛を書くぞ! と意図的に書いていたけれど、今はストーリーがあって、人物があって、その中で自然と生まれる愛を書くようにしている。
幸橋:
家族愛や男女の恋愛とは決めないんですね。
渡辺:
スターダスト・インフェルノの話にかかるけど、あの世界は実は性別はあんまり関係ない世界なので、男だとか女だとか関係なくそれぞれの中で自然に生まれる愛を書きたいと思っている。書いている内にこことここがくっつくんだと自分でもおもしろいね。
幸橋:
施設からずっと一緒だったソラとカイの関係とか気になるところですよね。
渡辺:
ソラとカイは公式だね。
幸橋:
彼らの関係をBLと表現しているのを
SNSとかで見かけたことがあるんですが、BLと言うと違和感があるんですよね。確かに一般的な家族愛よりも執着が強そうだなと思いますけど。
渡辺:
BLではないかなー
幸橋:
相手に性欲を感じるのかはある意味、線引きの1つな気がしているんですが。
渡辺:
彼らは人種的に性欲が少ない設定だけど、若いしあるんじゃないかな。わからないけど(笑)カイはねちっこい欲望があるけど、ソラが望まないから持たないという人だと思う。
幸橋:
ねちっこい(笑)あ、でも、わかる気がします。
渡辺:
どういう愛をというよりも人間愛を書きたいなと思う。プルガトリウムもあるシーンがBLシーンだと言われるけど、全くそんなつもりで書いていなくて2人はそういうもんだからそういう風に書いている。
幸橋:
では、その人間愛はスターダスト・
インフェルノの設定に限らないんですね。
渡辺:
限らない。時代としても、そういう男女という縛りはナンセンスだと思う。ファッションゲイとか一時期ネタにされたけど、非常に時代遅れだなと思うしね。
幸橋:
腐女子と呼ばれる方へのパフォーマンスもあるかもしれませんが。
渡辺:
腐女子さんはグルメだから、餌を与えると逃げると思うけどね(笑)
この作品のテーマは何? と訊かれるから、当時はそういうもんなんだと思って、今回は家族愛をテーマにとか意気込んで書いていたけど、今はテーマを訊かれたら、うるさい、テーマなんて無いと言える。
『引き継がれるテーマ②「運命と神」』
幸橋:
渡辺:
私は
愛以外に「運命」をずっと書きたくて、ヴァーミリオンは確かに愛を書いたけど、どちらかというと「運命」が強い。
幸橋:
愛は人間を描くと自然と描かれるものですが、運命は……
渡辺:
幸橋:
確かに。突然閉じ込められて、とか。
渡辺:
アカシックレコードとかね。同じ名前を使っている登場人物もあるよね。ドクターの本名がメルヴィンとか。
幸橋:
そうだーーー!!! 何かで見て、名前一緒だなあと思ってたんだ!! あれ、意図的だったんですか。
渡辺:
そうそう、あっちでやれなかったことをこっちでやってみようと思って、
スターダスト・インフェルノはモノクローム・パレードのリブート版みたいなスタンスなんだよね。
幸橋:
道理で雰囲気似ているなあと思いました……
渡辺:
知り合いの占い師さんから聞いたんだけど、能力がある人は、本当は運命を変える方法はわかるけど、運命を変えると大変なことが起きるからやらないんだって。
幸橋:
変えられない訳では無いんですね。
渡辺:
でも、変えると世界が壊れるレベルでやばいらしい。ちょっとしたことは計算して直してくれるけど、大きく変えると破壊してしまう。でも、それがすごく面白いなと思った。絶対勝てない敵に挑む人間という図式が好きだから、そういうのを書きたいなって。その絶対勝てない敵を運命と呼んでる。
幸橋:
運命に打ち勝つ話を描きたいんですか?
渡辺:
勝てるかわからない。絶対強いでしょ、神様に戦いを挑むようなものなんだから。
でも、
勝てたらおもしろいじゃんと思ってる。勝てるかわからないけど、書いている内に勝てたら良いなと思う。モノクローム・パレードは
ユグドラシルという絶対勝てない敵に挑む物語だった。
本当はあれは続く予定だったんだけど……隠しトラックに何人気づいているのかな?
幸橋:
どうでしょう(苦笑)気づいていても、もう聴けないですしね。RBプロジェクトさんの作品は聴いて欲しいけれど聴けないというものが多すぎて、ファンとしては悲しいところです。
さっきからよく出て来るワード「神」ですが、流久里さんにとって神とはどういう存在なんですか。
渡辺:
こんな話を書くから宗教をやっているのかと言われるけど、私は
無神論者で、ただ、
神様は不完全な存在、人間に近くて、立ち位置は人間の上にいるだけという存在かな。不完全で、完全ではないからワンチャンあるかもと思える(笑)
自分の中で神は人間よりももっと自然的でぼやーっとしている。ただ、人間が持っているものを全部持っている。それが作品に共通した神のイメージ。
幸橋:
他には意識している要素はあるんですか?
渡辺:
そうだなあ。青が好きなので、青をメインカラーにすると気合入っているんだと思ってもらえれば(笑)
あとは、星・宇宙は神と同列みたいな感じがして心惹かれるモチーフだね。
幸橋:
あ、では、もしかして、SFの話が多いのは、SF好きというよりも星と宇宙、引いては神を出したいからなんですか?
渡辺:
そうだね。SFが好きなんですかとよく言われるけど、SFが好きというよりも宇宙が好きなだけで、SF好きとは名乗れないかもしれない。
幸橋:
私もSFが好きなんだと思ってました。本当はどんなジャンルが好きなんですか。
渡辺:
ずっとはらはらしていたいから、サスペンスが好き。あとは、体力使いそうなもの、人間のドロッとしたリアルな感じとか。
幸橋:
納得(苦笑)
渡辺:
死ぬような話を書くから死ぬとはどういうことか重く考えて書かないといけないなとは思ってる。キャラをストーリーを面白くする装置としてだけで出したらダメだといつも言ってる。
あ、もう1つ、
命は続いていくというテーマも書きたいなと思っていて、スターダスト・
インフェルノにも強く出ているので、その部分も見て欲しいな。